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手のひらの虹 【恋人は公安刑事】津軽高臣編

第8章 初めての夜 〜回想〜 〈津軽目線〉


俺は、ウサの一言から逃げたくなった。

どうにか、気持ちを持ち直そうと、コンビニに入った。
コンビニのトイレで自分の顔を見た。
俺の目の下には、くっきりとくまが出来ている。
首の薄い赤いシミにも気付いた。
普通なら、殆ど気付かないであろうシミだったが、あの女が付けた物だと直ぐに分かった。

俺は、コンビニの壁を思いっきり殴った。
大きな音がしたので、コンビニの中にも響いたのかもしれない。
でも、そんな事は、どうでも良かった。

冷静になりたくて、コンビニに入ったというのに、コンビニで冷静さを益々俺は、失っていた。

車に戻るとウサが俺の顔を心配そうに見つめた。

「津軽さん、やっぱり昨日の捜査で寝てないんじゃあ無いですか?」

「うん、ちょっとだけ眠いかな?三十分だけ寝るから、ウサちゃん三十分経ったら起こして」

誤魔化す様に言った。

そして、運転席のシートを倒して、ウサとは逆の方を向いた。

実際のところ、ウサに合うのは、誠二くんみたいな男じゃあないのか?
決して俺みたいな男だとは思えなかった。
俺の中のどす黒いコンプレックスがふつふつと湧いて、俺の心を蝕んだ。
ウサに合うのは、誠二くんみたいな男なのだ。

(だいたい、俺は殺される為に生きてる様な男なんだよ!何夢見てるんだ!)

俺が実際、寝てない事など、ウサは、とうに気付いている事など分かっていた。

もう、ウサとは無理だ。

それ以外の結論など、導き出したくても、導き出す事が出来なかった。


運転席のシートを起こした。

ウサが心配そうに俺を見ていた。

(ウサ、ごめん、お前を俺は、幸せに出来ない男なんだよ)

「ウサちゃん、止めよう。俺たちの関係」

ウサが、はっと目を見開いた。

そして、一瞬、覚悟を決めた強い目をして言った。

「わたしは、津軽さんが、わたしとの関係を終わらせてたとしても、ずっと津軽さんを思っていると思います」

こんな状況に落とされても、ウサはどこまでも真っ直ぐだった。
俺とは、全然種類の違う人間なのだ、ウサは。

このまま、引き返して帰るつもりだったが、最後くらいウサに良く思われたいという未練が俺にあったと思う。

俺は、ウサにこう言った。

「じゃあ、今日で終わりにしよう。
今日が、最初で最後の俺とウサちゃんのデートにしよう」

俺は、ウサと何を話せば良いかも分からなかった。
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