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手のひらの虹 【恋人は公安刑事】津軽高臣編

第8章 初めての夜 〜回想〜 〈津軽目線〉


玄関の扉が閉まる音がした。

俺は、テーブルの上の水の入ったコップを思いっきり右手で払い倒した。
鋭い痛みを感じて、右手を見ると、ガラスのコップが割れて、右手から赤い血が、ぽたぽたと落ちて、
絨毯を赤く染めている。
俺は、拭うこともせず、絨毯を赤く染める血を眺めていた。

「くっそぉ!」

だいたい俺は、情報源を抱いた事など、今まで一度もなかった。
その前に大抵、のらくらして、必要な情報は引っ張って来た。
ウサとデートしたい俺の焦りが、捜査の邪魔をしたのだ。
何とかなったのは、モモのお陰だった。
多分さっき、俺がウサを強引に求めた事で、ウサは、俺に見切りを付けただろう。

ウサに叩かれた。左頬が痛い。

俺は、ウサをどのくらい傷付けたのかすら分からない。
俺があいつを押し倒した時のウサの恐怖に怯える顔が頭に浮かんだ。
ウサは泣く寸前の歪んだ顔になった。
それでも、尚俺はウサのブラウスのボタンを外し、ウサの露出した肌を貪った。

ウサに思いっきり頬を叩かれて、ウサの顔を見ると、ウサの目から、涙が溢れていた。

実際は、ウサが、公安課に俺を探しに来てくれた事が、俺は嬉しかった。
だけども、素直になれずにいた。
自分にイライラしてる癖に、ウサに八つ当たりをしたのだ。

俺は、ウサが、マンションの通路での強引なキスを受け入れてくれた事に有頂天になっていたと思う。

ウサとなら、俺の未来も輝いて見える気がしていた。

あいつが、行きたがっていた公園では、ウサに優しくキスをする予定だった。

海に連れて行った時のウサの顔が頭に蘇った。
ウサは、嬉しそうに、はしゃいだ様子で海を眺めていた。

ウサが俺の為に、髪を綺麗にカールしていた事も、最初から気付いていた。
だから、ことさらにウサをからかった俺がいた。

海を見て車に乗る前までは、俺は今日の俺達の初めてのデートが、俺に取っても、ウサに取っても、忘れられない大切な一日になるだろうと思っていた。

でも、ウサの一言で、俺の考えが、甘過ぎた事に気付かされた。

ウサが言ったあの一言。

「はいはい。津軽さんはハニトラの達人で、警察庁中の女の子とデートするくらいカッコ良いです!」

何時もなら、軽口で交わせる様な、何気ないウサの言葉だった。

でも、ウサの口から何気なく零れた言葉が、ウサから昨日の行為を突き付けられた様な気がしたのだ。
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