第8章 8
その夜、うちは火影室で作業をしていた。
シカマルは徹夜続きのため、かかし先生が今日は早めにと帰らせていた。
「かかし先生、少し休憩しますか?お茶かコーヒーいれてきますけど」
「ん~じゃ、コーヒー頼むね」
「はいっ」
どうぞといって、コーヒーを渡す。
一口のんで、かかし先生がぽつりとつぶやいた。
「香蓮がね…死にたくないって、まだ生きたいって言うんだ…」
その言葉を聞いてかたまった。
「俺と、えまとまだ一緒にいたいって…」
香蓮さんの最後の時まで、その時間を大切に意味のあるものとして使ってほしいと思っていたが、先生の言葉により、自分のやっていることが正しいのか一瞬わからなくなった。
「うちが、よけいな希望をもたせて、逆に苦しませてるんでしょうか…」
「いや、違うよ。実際香蓮はえまと会うまで、もう抜け殻のようになってて…ただ死を待っているって感じだったんだ。本当の香蓮を取り戻してくれて感謝してる。俺がこれを話したのは、香蓮の気持ちをしってほしかったから。香蓮はえまを本当に慕っている」
香蓮さんは生きたいという希望を膨らませると共に、迫りくる死の恐怖のはざまにいるのだろう。目の前が涙でゆがんだ。
「えま…大丈夫?」
「かかし先生は…もし、香蓮さんを死なせない方法があるならそれを実行したいと思いますか?」
突拍子もない質問だ。少し驚いたように先生は目を見開いた。そのあと、一息はいてから、
「そうだね、そんな都合のいい術があれば、この里の英雄達も死なずにすんだだろうね。ま、いくつかその類の術は見たことあるけど、それはもはや禁術にあたる。えまも物語を見ているなら知っているだろ?」
知ってる。砂隠れの里のチヨ婆が風影我愛羅を助けた転生術、ペイン長門がやった輪廻転生術。
「すみません。くだらない質問をしてしまって…」
「いや、いいんだよ…俺も香蓮もこの運命は受け入れようと思っているから…」
そういったかかし先生の手を思わず握ってしまった。
「す、すいません…でも…先生が一瞬消えてしまいそうに思えて…」
手を離そうとすると、ぐっと握られた。
「しばらくこうしてくれてると…助かる…」
かかし先生は…もしかしたら泣いていたのかもしれない。
しばらく深くうつむいたまま、うちの手をしっかり握りしめていた。うちの涙は、ただただ、いくつも頬をつたうばかりだった。