第5章 やがて糸は火となり繭となる
「まるで母親のようですね」
グリムが購買部から出て行った後、ジェイドが言った。
それは揶揄うでもなく、感心するような声色だった。
山には、ジェイドとユウ。そして何故かフロイドも一緒に来ていた。
購買部から出る時、ジェイドがフロイドに「フロイドも来ますか?」と声をかけたのだ。
フロイドは断るかとユウは思っていた。そしてそれはジェイドも同じだったようで、少し拗ねたように「……行く」と言ったフロイドにジェイドは少し驚いていた。
生き生きとした草木の爽やかな香りと、朽ち果てていく時の香り。それらが入り混じり、ユウの鼻腔を擽った。
いい匂いだ。
山の香り。
心が落ち着く匂い。
すぅっと深呼吸すると、綺麗な空気が身体の隅々まで行き渡るような気がした。
ユウは山に登ったのは久しぶりだった。
中学二年生の時の登山以来。
ユウの地元は田舎で、山に囲まれている場所だったので、中学生の登山と言っても中々本格的なものだった。
一泊2日の登山で、雲よりも高い場所にあるロッジに泊まったのを覚えている。
その時の記憶を思い出しながら歩いていると、ユウの前を歩いていたジェイドが振り返った。
因みに、ジェイド、ユウ、フロイドの順番で一列になって歩いている。