第18章 人の生
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(此処は……)
ふと目を覚ます。
今が昼か夜かもわからない。陽の光が差し込まない暗い牢屋にすみれは居た。
(そうだ。私は…)
優しい叔父と叔母だと思っていた彼等の正体や悪事を知り、住んでいた屋敷が崩れ、炎に包まれた。
ディック―――もとい、ラビと別れ、戦火から逃げ回っていた所、黒の教団アジア支部に保護―――否、疑いをかけられ拘束された。
叔父と叔母の悪事がAKUMAと関連があると踏み、調査していた黒の教団と遭遇した。
もう此処に何時間…否、何日いるかもわからない。
「来吧、出来吧。(さあ、出てこい)」
「……」
看守らしき男性から発せられたのは、聞き慣れない中国語。だけど、ディックから沢山語学を学んだおかげで安易に聞き取れる。
ディックと一緒に過ごしていたのが、つい先日のことなのに。もう遠い昔のような出来事に感じる。
(―――こんな時のために、語学を習得したわけでは無かったのに)
看守が、重い鉄の扉がギギィ…と開く。
すみれは言われた通りに出ようとするも、鉄の拘束具で手足を自由に動かせない。ジャラッ…ジャラと拘束具の鎖の重々しい音がやたらと地下牢屋に響いた。
鉄の拘束具が、まるで罪の重さを具現化しているようだった。
「おい、外してやれ」
「はい」
「…ッ」
手鎖が肌に擦れ食い込んだせいで、赤く爛れ血が滲んでいた。
「飲みなさい」
「これ、は…?」
すみれが痛みに耐えていると看守から薬瓶を渡される。
「忘却薬だ」
「忘却…?」
「貴女は黒の教団について知りすぎた。
これを飲めば黒の教団やAKUMA、ブローカー、千年伯爵等に関する事を忘れる事が出来る」
(AKUMAやブローカーを、忘れる…?)
突然の提案に思考がついていかないすみれを他所に、看守は話を止めることはなかった。
「これを飲まなければ、貴女は黒の教団から出ることは出来ない。そして今までのような一般人として普通の生活はないと思いなさい」
忘れたい。
この心身の痛みを、一刻も早く消してしまいたい。
もう全てを投げ出してしまいたかった。