第13章 現在に至るまで
※すみれ視点
「ーーーー振り返らず、行くさ。この戦場から逃げろ。」
あの時のディックは、急に大人びてしまって
「すみれは生き延びろ。
ーーーーお願いだから、死ぬな。」
こんな状況にも関わらず、見惚れる程の笑顔を浮かべて、私の髪を優しく掻く。
だけど、その手は酷く震えていて
私から 動かなきゃいけない
私から ディックと離れなきゃいけない
そんな風に、思った。
「…わかった、ディックの言う通りにする。
助けてくれて、ありがとう。
また 会えるよね?」
「ーーーーーーーーああ。」
ディックの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
見間違いかと思った。
ディックはあの時、泣いてた。
それが、サヨナラの合図だと
もう二度と会えないんだと、わかった。
* * *
ーーーあれから約2年ほど過ぎ、
私は黒の教団の、科学班で働いている。
「ーーーーーーーーーディック?」
「………すみれ」
再び名前を呼んでもらえるなんて、思いもしなかった。生きて会えるなんて、思いもしなかったの。
だから、これは夢なんじゃないかな。
夢なら醒めないで
少し大人びた彼を、目に焼き付けておきたい
「やっぱり…ディックだ」
そう思うのに、思えば思うほと涙が込み上げ、視界がぼやける。彼の姿が霞んでしまう。
すみれの目から、一筋の涙が頬を伝った。
「…すみれっ!」
ディックが私の側へ駆け寄ってくれる。
「…ずっと、元気にしてた、さ?」
「うん…ディックの、おかげでっ」
はっきりと再び私の瞳に映る彼は、記憶とは少し異なり、少年から青少年へと成長を遂げていた。
やっぱり 夢かもしれない
そんな風に思ってしまう。
「すっかり見違えて…一瞬、気付くのが遅くなっちまったさ」
「そう、だよね。びっくりするよね、」
だって、あの頃の私は。
いつも化粧を施し、髪を結い上げ、綺羅びやかなドレスを纏った貴族令嬢だったのだから。
「話すよ…ディックと別れて、あれから何があったのか」
ディックと別れ、再開した
ーーーーーーーーーー現在に至るまで。