第12章 【番外編・SS】Valentine 2021
2月某日。
ここ最近、ブックマンとしての仕事の多忙さが嘘のように落ち着いている。
バレンタインの時期が近づき、街はチョコレートや焼き菓子、プレゼントの宣伝で溢れかえっていた。
(バレンタイン、ねぇ)
今までの俺だったら、そんなイベントは見向きもしなかったと思う。
(この国だと、男性から贈るのが常識なんだな)
お店の宣伝から伝えられるものは、女性が如何にも好みそうなチョコレートや可愛らしいお菓子、または女性向けの装飾品だ。
(あ、すみれが好きそうなデザイン…)
ついつい商品を目で追ってしまうのは、好きな人がいるからな訳で。可愛らしい小物に手を伸ばし、そして辞めた。
(いや、物をプレゼントするのはやめとくさ。)
後に、残ってしまうから。
以前、すみれにヘアアクセサリーを贈ったときはそんなこと気にもしなかった。
自分がすみれからマフラーを貰って思った事。
もちろん、誕生日に貰ったハンカチも嬉しかったが、この白いマフラーの方が思い入れが強い。
後に物だけが残り、その物に想いを馳せるなんて寂しいではないか。
(だから、Xmasプレゼントも。あえて花にしたじゃんか)
花はずっと残ることはない、いずれ枯れ朽ちる。だから、伝えられない想いを密かにのせて、プレゼントさせてもらった。
「…って、待てよオレ。なんかプレゼントする前提になってね?」
思わず自分自身にツッコミを入れる。
すみれとは恋人とか、そんな関係じゃねぇし!
…と、思いつつも。とある商品説明のポップに目が行ってしまった。
(へぇ。手作りのお菓子をプレゼントすんのが、流行ってるんさねぇ)
店頭には『男性も手作り!』と大きなポップが飾られていた。どうやら材料や説明書等が1つになっており、とてもお手軽だとか。
“手作り”
このワードに、今の俺はどうやら弱い。
…まあ。理由なんて言わずもがな、さね。
「へぇ、トリュフって簡単に作れるんだな」
〜箱に記載された説明書〜
①チョコを溶かす
②温めた生クリームと混ぜ、固まらせる
③固まった②を丸め、パウダーをかける
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……コレ、ひとつください。」
俺は迷わずレジへ向かい、会計を済ませた。