第2章 1shot
いつの間にか、時計の短針は11を指していた。
がらんどうとも言えた店内は、いつものように活気を取り戻している。
カウンター席の隅っこに陣取ったままの私は、一口分のモヒートを喉に流した。
忙しなく手を動かしているマスターには、話しかけられそうにもない。
スマホのロックを片手で解除した。
意味もなく開いたTwitterをなんとなくスクロールする。
トレンドの一番上には、ラジオ番組の名前が書かれていた。
「そまみさん、お隣にお客さん案内しても大丈夫?」
その問いに私はコクリと頷いた。
さりげなく気遣ってくれたマスターは、ニコリと微笑んで入口に待機しているお客さんの元へ行った。
「隣失礼します。」
スッとした体形の男性が、隣に腰かけた。
私は軽く会釈をする。
「今日はどうされますか?」
マスターが、スープと共にメニュー表を差し出す。
それを受け取った隣の席の彼は、どうしようかなと頭を悩ませているようだった。
「壮馬、どれがいいと思う?」
「ん?俺?!…そうだなぁ、界人くんならジン・トニックとか?」
「じゃあそれにする~。壮馬は決まってる?」
「うん、ジェムソンをハイボールで。」
「かしこまりました」
隣に座った二人組は常連なのだろうか。
どことなく出来上がっていた雰囲気を、私は盗み見ていた。
クイッとグラスを傾けると、三杯目のグラスが空になる。
そろそろ帰ろうかな…。
私はスマートホンを鞄にしまった。