第13章 夢枕ララバイ!【Riddle】
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夕刻、監督生は一面に広がるバラの中でウロウロ歩き回っていた。
(ど、どうしよう。)
放課後、デュースに用事があったのでハーツラビュル寮を訪れていたのだけれど、帰り道がわからなくなってしまったのだ。
ここは"バラの迷路"と呼ばれる庭園。
右を見ても左を見ても可愛いバラが咲いているので彼女は嬉しくなってしまい、つい足の向くままにズンズン進んでしまったのだ。
そして迷った、と。
この歳になっても迷子になればやっぱり不安になる。
バラの迷路は学園寮の敷地内のはずなのに、全然人がいない。
もしこのまま誰も見つけてくれなかったら。
ああどうしよう、と何だか泣きそうになってきた。
「おや、こんな所に迷子の女の子が。」
そんな時、知ってる声がしたので縋るようにして振り返る。
「リドル先輩!よかった…」
制服姿のリドルが立っていた。
ハーツラビュルの長たる彼が来てくれたからには、もう心配はない。
「何をやっているんだい、こんなところで。」
「恥ずかしながら、迷ってしまって。帰り道を探していたんです」
「帰り道?ボクの許可もないのに?」
「へ?」
リドルは悪戯っぽく、「冗談さ」と笑い"恋人"に手を差し出した。
その顔に安心して監督生も笑う。
彼がこんな風に軽い冗談を言うようになるなんて、だいぶ、いやかなり丸くなったなと思う。
「おいで、紅茶を飲んでお行き」
「でも、帰らないと」
「客人はもてなさなければならない」
「それはハートの女王の法律で?」
「さあね」
「ふふ、お誘いありがとうございます、だけど今日はグリムが待っているので」
「口説いているんだけど」
リドルは低く言うと頬を片方だけプクッと膨らませ、ふてくされてみせる。
「あ!そういう、ことなら…」
「よろしい」
目をぱちぱち瞬かせる監督生の答えに、リドルは機嫌をよくした様子であった。
彼女はきっと、これくらい強引に誘わない限りは応じないだろう。
グリムの監督責任や学園長の言いつける用事で、ヘビィな毎日を送る監督生にひと休みさせること。
それは恋人であるボクの役目だ。
と、リドルは思うのである。