第1章 良夜ティーパーティー!【Malleus】
その時、ゴーン、とオンボロな時計が鳴った。
12時になったのだ。
「もうこんな時間」
「僕はもうお暇しよう。実にいい夜だった。」
「待って、ツノ太郎」
監督生がツノ太郎の制服の端を握った。
「ねえ、教えて頂戴」
「何が知りたい?」
「あなたの名前は?何年何組なの?同じ学園に通っているのに会えたことがない」
ふふふふ、とマレウスは笑う。
「ツノ太郎ったら」
「僕は3年D組だ。」
「お名前は?」
「僕の名を知りたいのか?」
…監督生は刹那、フラっと意識を失い、その身体は空中に仰向けのままに浮いた。
マレウスの魔法であった。
彼女は眠っている。
「おやおや」
そのまま談話室のソファへ彼女を降ろし、寝かせておく。
その寝顔は呪いのように安らかで、もう起きないのではないかと錯覚しそうになる。
「おやすみ、人の子。夢で会おう」
これで良かった。
彼女は自分の正体が皆に畏れられるマレウス・ドラコニアだとは知らない。
それなら今はまだ、魔法にかかっていてくれれば良い。
僕の正体を知った時、お前は怖がるだろう。
僕がマレウス・ドラコニアだと知れば、僕を招待する人間は居なくなる。
だから今は、僕をツノ太郎だと思っていればいい。
12時を過ぎ、マレウスが居なくなった談話室は魔法が解けたみたいに静寂が支配していた。
…
マレウスは宵闇に溶ける。
大きな満月が綺麗だった。
END.