【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第3章 3分の1でも選ぶとは限らない
「……あ」
学校から少し離れた公園、それなのにブランコを漕ぐ音が聞こえる。ブランコに揺られているのは水田さんの背中だった。
そういえば、前にもここにいた。確か動画を見ていてすぐに気付かれた。それなのに今日は有線のイヤホンを付けているせいか、未だ俺には気付いてない様子だった。背後に回り距離を詰めると左耳にはめていた有線のイヤホンをそろりと耳から引き抜いた。特にびっくりする様子もなく、水田さんがゆっくりと後ろを振り返る。
「食べる?」
持っていたチューペットを見せびらかしながら問いかけた。ブランコに座っているせいかいつもより身長差が開いて新鮮だ。見上げるような姿勢だから、自分に主導権があるようで少し気分がよかった。
「え、いつ買って来たの」
「帰る時、ひとりで食べようと思ってた」
「じゃあいいよ、ひとりで食べなよ」
薄目にそう吐き捨て再びイヤホンを耳にはめた。いい気分だったのを一瞬で破棄された。一瞬で俺は空気になった。たまらずもう一度イヤホンを取り上げた。
「もう溶け始めてるから早く食べて」
水田さんの返答を無視して勝手に二つに折ると、溶け始めてるせいで解けたチューペットが垂れだした。それを見て水田さんは「うわ! 溶けてんじゃん!」と呟くと、両手に持っていたもう一方を指差した。
「私、食べるならその出っ張ってる方がいい」
(いらないって言った癖に要求かい、)
持っていたチューペットのおしりの方を見比べた。丸く出っ張っているものと棒状が出っ張っているものがある。水田さんはこっちの棒状の方が欲しいみたい。
何となく、しばらく考えてから水田さんがほしいと言っていた方を口にして、丸い方を差し出した。あからさまに白々しい目で見てくる。これだよ。いつもの顔。