【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第2章 夏に濡れ衣ぎを着させたい
「だからあんな奴に、人生棒にふるって………なんか面白くないねん」
少しだけ、水田さんの歩くペースが遅くなった気がした。
「水田さん、ここら辺に住んでないんやろ?」
「まぁ、電車で40分くらいかな」
水田さんがそう相槌を打つ。
「あんな奴に、自分の人生ぶち壊されて腹立たんのか? 俺だったらクソ腹立つで? 俺だったらさっさと記憶から抹消する。せっかく高校で別になれたのにまだそんなクズ引きずって、わざわざこっちに来たのは離れたかったからちゃうん? 正直、今まで無口だったり、無愛想だったりするのがあのせいなら、正直うち来なくても近くの高校で良かったんちゃう?」
「……………俺には、関係ないんじゃなかったの?」
少しして、水田さんの質問に俺は引っかかった。
「俺とあいつは関係なくても、水田さんは俺と同級生やろ?」
「………そうだった」
「あんな奴はな、侑みたいに一発グーでぶん殴って綺麗さっぱり忘れるのが正解や」
背後で「フッ」と微かに微笑が聞こえた気がした。
「別に今まで通りでもええよ、俺はなんでもいい。でもあいつのためだったなら、それはやめといたほうがええ。少なくとも、うちのクラスにあんななヤツおらん」
祭後の少しだけ穏やかな空気と、でも華やかな街灯と提灯が辺りを照らし始めた所で水田さんの腕を離した。
少しだけ背後にいた水田さんと背を並べて歩幅を合わせる。歩道側、丁度頭一個分の身長差。顔は頭横にある狐のお面で見えん。
やっぱり普段と違う服や髪型をしているせいなのか、今でも少しギクシャクした感覚になる。
多分よさこいやっとるのも、水田さんのことだから見られたくなかったのも、あると思う。
「……………侑も角名も、クズではないで」
「はは、ついでのフォローどうも」
さっきよりも砕けた笑い声に、いつもの水田さんの雰囲気が戻って来た気がした。