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《イケメン戦国》時を越えて

第10章 時を越えて〜収束へ〜


〜義元目線〜
桶狭間の合戦で城も領地も失くしたのに、なぜか命だけは助かった。帰る場所を失くした俺は残った家臣とともに、謙信の居城に世話になっている。
戦は好きじゃない。苦痛に歪む人の顔は美しくない。
俺自身は領地に興味はないし、頼まれる以外は戦に出る必要のないこの状況をありがたく思っている。
余生は美しいものを愛でて過ごしたい。
俺が望むのはそれだけだった。

そんな日々を送る中で舞に出会った。
舞は最初から何もかもが美しかった。そして、中身を知ればそれもまた美しい。純粋でキラキラした玻璃のような瞳の舞にとても興味を引かれた。
どんな相手でも屈託なく物怖じしない豪胆さも、童のようにクルクルと変わる表情も。その全てが俺を魅了した。

(側に置きたい。)
出会ってから何度そう思ったか。

でも、俺にはその資格はない。

今川家最期の当主として、残る家臣たちの行く末を見守ることが、戦に敗れ情けなくも生きながらえた俺の使命であるから。
子を成すつもりも妻を娶るつもりもない。俺が子孫を残せば、ここで断ち切られるはずの家臣たちの野望がまた再燃する。だから、子は作らない。そして、妻を娶れば子を望まれる事は分かりきっている。恋仲を作ることもないだろう。
一人で生きていくこの先の人生を思えば淋しくないわけじゃない。でも、己の幸せを犠牲にしてでも、それだけは守らなくてはならない俺の『義』だ。
そんな俺の密かな決意を知る者は誰もいない。

『美しいものに目がない浮世離れした今川義元』
人々が評する俺はそれで良い。


城下町を舞と並んで歩く。
自然を装って繋いだ手に心が躍る。
反物屋の主人に夫婦だと勘違いされ、否定しようとした舞を
「夫婦と思われた方が都合が良い」
とごまかして黙らせた。

夫婦の真似事がとても幸せだった。

(いつか本当に…)
そう願う本音は胸の奥に隠して束の間のこの時間を心から堪能し、この先の人生の彩りにしようと密かに思った。

反物屋で舞の希望のものを購入した後は、茶屋で休憩する。
「義元さんのおかげで良い買い物ができました。」
嬉しそうに言う舞は、何種類もの端切れを購入した。
高価な生地が端切れなら手頃で買える。それを知った舞はとても喜んだ。
「こんなにたくさん、全部マキビシ入れにするの?」
そう聞けば
「これを入れる袋も作りたくて…」

それを見て驚いた。
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