第2章 ブラック氏の黒歴史
「車を追え!あの黒い車だ!」
「はい!」
パトカーで追いかける者、バイクで追いかける者。だが日も暮れて暗くなったこの路地では黒い車は見えづらい。街灯もあまり役には立っていないようだ。また逃げられるかと思っていた。ところが。
『警部!黒い車を確保しました!』
「でかしたぞ!ミューズが乗ってるはずだ!」
『りょうか……何っ?!………警部、乗っているのは50代の男性だけです。荷台も見ましたが何もありませんし誰もいません』
「そんなバカな!現場から去っていった車は、あれだけだったんだぞ!」
「おい!どうしてくれるんだ?!賠償金ものだぞ?!」
声をあげるブラック氏の後ろからクスクスと笑い声がした。
「ふふふ。ミスターブラック、あなたの悪事を記したパソコンのデータはいただいたわ」
声はするが姿がない。
「どこだ?!出てこい!データを返せ!」
「データはカラ松警部の上着のポケットよ。名画はすでに運んだから、後は元の持ち主に返すだけ」
「一体どうやって…!」
「ふふふ。それは、ひ・み・つ。じゃあね、カラ松警部。またあなたに会えて嬉しかったわ」
声のする場所を探したが、ミューズはいない。怪しい人物が移動した覚えもない。動いたのはあの黒い車だ。
「もしかしたら…!」
車まで走ってレシーバーを取り出す。
「さっき車を追った奴はいるか?!」
『はい、自分です!』
「車のナンバーは確認したか?!」
『えっ…いえ。男性のみでしたので特には…』
「あの絵画を持ち出して誰にも見つからないように移動するならどうしたら早いと思う?」
『自分なら車の屋根に……ああっ!』
「……してやられたんだ!」
「貴様!俺の大事な絵画を盗まれて、すみませんでしたで済ませる訳じゃないだろうな?!」
「ええ、もちろんですよ。そのためにもご同行願います。怪盗ミューズについて、詳しくお聞きしたいので」
「俺は言わんぞ!」
「その辺も署でお聞きしますので」
その後ブラック氏は恐喝、強要及び名誉毀損、収賄等の疑いで逮捕された。ミューズがカラ松警部のポケットに忍ばせたデータが決め手となっている。そのデータには取引先の凸凹会社との裏取引や賄賂のやり取り、ヴァカボーン邸の主に対する殺害依頼等、山ほど出てきたのだ。そのデータは上書き出来なくしてあり言い逃れは出来なかった。