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【鬼滅の刃/煉獄】冬来たりなば春遠からじ

第15章  離れていても君を想う







月明かりが届かない木陰に立ったその人物を、咲はそろりと腰を上げながら見つめていた。

(鬼…だろうか)

だがその割には先ほどから身動き一つ取らずに、こちらをただじっと凝視しているだけだ。

(いや、私の存在には気づいていない…かもしれない。蛍を見ているのかも…)

咲は今、小川の川岸に鬱蒼と生い茂る背の高い草の間にいる。

小川の水を汲もうとしゃがみ込んでいたし、草を揺らさぬように立ち上がったから、いくら月の明るい夜とは言え、もしかしたら見えていないかもしれない。

そもそも、目立たぬためのこの黒衣である。

(いずれにしても、夜に灯りも持たずにこんなところにいる人物は怪しいと言わざるを得ない。早く距離を取ろう)

咲は自分のことは棚に上げて、ソロリ、ソロリと草の間を縫うようにして後ずさりを始めた。

その間も草の隙間から見える人影に動きは無い。

(良かった、どうやら気づかれていない様だ)

そう思った時、すぐ横の茂みが大きく揺れた。

「お前、稀血だな」

「わあぁっ!!」

草の間からニュッと鬼が顔を突き出していて、茶目っ気のある仕草とは裏腹に醜悪な笑みを浮かべた。

(しまった!!あちらの人影にばかり気を取られていて、こっちの鬼に気づいていなかった!!)

とっさに腰の拳銃に手が伸びるが、それと同時に、先日不死川から忠告された言葉が蘇る。

「使うのはどうしようもなくなった時だけにしとけよォ?鬼に見つかったら、とにかく逃げることだ」

そうだ。

藤の花の香水を付けているのだから、基本的には鬼に捕まる事はないし、いつものようにまいてしまえば良い。

そう思って咲は、もはや川向こうの人影に気づかれないようにという思いもかなぐり捨てて、走り始めたのだった。

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