第32章 約束
「呼んでよ」
アルコは真剣な目を向けて、微笑んだ。
「私を、呼んで。こないだ……起こしてくれた時みたいに」
真っ白な世界で眠っていたアルコは、ローに呼ばれた気がして目を覚ました。
目を開けると、実際、彼は目の前に居てくれた。手を握ってくれていた。
その悲壮と安堵の表情から、かなり長く眠っていたのだとわかった。それをずっと心配してくれたのだとわかった。
嬉しかったよ
ローが呼んでくれるなら
私は起きられる
「これを、一気に……」
手足や顔などの日常的にさらされる部分のうち、白いアザが残っているのは この左腕だけだった。
「ああ。起きたら消えてる、……ハズだ」
別れには ならない。
目覚めない、なんてことはない。
そう信じたくて、ローはあえて淡々と作業を進めた。
呼吸器をつけて、点滴で麻酔を入れる。
深く眠ったことを確かめてから、ローは能力を使って左腕の珀鉛をすべて取り除いた。
治療を終えたローは、アルコの左腕を固定しながら包帯を巻いた。
2週間……
安静にすれば、アルコは一層 自由になれる
自分らしい自由な服を選んで着られる
他人の目を気にせず
その若さや美しさ相応に肌をさらして
自由に振る舞うことも出来るだろう
──── おれ以外の男の前でも
アルコの自由を願いつつも、自分のそばから飛び立っていってしまうかもしれないことに少しの焦りと苛立ちを感じた。
しかし、“今”優先させるべきは……
ローはアルコの眠りの状態が安定していることを確認すると、明かりを消して扉をロックした。
部屋を後にして、R棟の螺旋階段を降りる。
しかし その途中、不快な音がローの耳に届いた。嫌悪感をそのまま顔に出しつつ、警戒しながらも階下へと足を進める。
研究所に鳴り響いたのは、海軍G5率いる“白猟”のスモーカーが、無遠慮に鳴らしたブザー音だった。
= 第32章 【約束】 終 =