第1章 *僕は
「ふふ、…奥さんにバレても知らないわよ」
そう言って、彼女は微笑む。
僕も、彼女に微笑み返し、そして答えた。
「いいんだよ、別に」
「…貴方らしい答えね」
そして、僕は彼女をベッドに押し倒した。
田中和樹。
どこにだっていそうな名前。
けれど、間違いなく、これは僕の名前。
そして、僕は「不倫」をしている。
悪いことだとは分かっていた。
妻である奈津美を、傷つける行為であることも。
それでも、僕はこの行為を止めない。
…止められない。
だが、このとき、僕は気が付かなかったのだ。
…まさか、あんなことになるなんて。