第5章 御都合ライアー！【トレイ】

｢自分がフラれたなんて、優しい嘘だ。ヒカルには気を遣わせてしまったみたいだな。……そんなわけだからエース、取り越し苦労をさせて悪かった。｣

エースとしては、フラれてしまったヒカルが不可解で、それで協力しようと思ったのだろう。
トレイの一方通行な想いを見透かしていたのなら、自然な考えだ。

｢待ってくださいってば。オレ、ヒカルがフラれたってのも信じらんなかったけど、トレイ先輩がフラれたっつーのも信じらんない。｣

｢信じられないと言われても、事実だからな。嘘をつく必要もない。｣

｢なにそれ、ヒカルとおんなじようなこと言っちゃってさ。じゃあオレも同じ質問しますけど、フラれたってどんなふうに？ 告りました？｣

｢その質問に、ヒカルはなんて？｣

｢関係ないでしょって一蹴っすよ。｣

ならトレイも、関係ないとばっさり言い捨ててしまってもいいだろうか。
フラれたばかりの傷に塩を塗り込まれるのは、さすがに辛い。

｢ま、確かに関係ないけどさ、見ててヤキモキすんじゃん。ぜってー両想いなのに。｣

｢……両想い？ 俺とヒカルが？｣

｢そうっすよ！ あれ、まさか気づいてない？ ヒカルのやつ、トレイ先輩のこと好きっすよ。｣

｢ハハ、まさか。｣

それこそエースの思い違いだ。
彼女に少しでも恋心があるのなら、あれほど清々しくトレイを切り捨てないだろう。

記憶を取り戻してなお、あんな茶番劇に付き合ってくれたのは、ヒカルなりの復讐なのだと思っている。
処女云々については、今でも理解ができないけれど。

｢ヒカルといい、トレイ先輩といい、なんでそんなに自己評価が低いんすか。｣

｢そりゃ、フラれたからな。お前の言うように、ヒカルが俺を好きって思えるほど厚かましくはなれない。自分に非があることも、嫌というほどわかってるんだ。｣

｢トレイ先輩がヒカルになにをして拗れちゃったのかは知りませんけど、本当にちゃんと告りました？ あいつが誤解しないくらい、ちゃんと？｣

｢それは…――｣

告白はした。
好きだと何度も伝えた。

けれど、トレイの真剣な想いは、はたしてヒカルに伝わっていたのだろうか。