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鬼胎を抱く

第2章 鬼と異界


「此処が、異界・・・?」

一瞬だった。
凄い衝撃がきて、目をとじた。それでも、すぐに目を開けた筈だ。
一秒も経っていない・・・、と思う。

「此処は・・・、森の中か?町は何処に?・・・それにしても。」

そう言って、下げていた視線を目の前に向ける。
そこには此方を睨み警戒している不思議な生き物。
体は、虎よりも一回り大きく、野生とは思えないほどの綺麗な毛並み、純白の背には己を包んでしまう程の翼。
神には劣るが、圧倒的な存在感。

「・・・。」

黙って見詰め合っていると、目の前の獣が体をピクリと揺らす。
右に顔を逸らし、そのまま茂みを見つめる獣。
それに合わせ、鄙鬼もチラリと視線をよこす。

「・・・。」

正体に気付いてはいるが、まぁ・・・何て言うか、面倒くさい。
ついに、牙を剥き出しにして唸り始める獣。
それに困ったのか、それとも逃げきる自信があるのか、茂みから出てきた人間・・・。

「そ、そう怒るなよ・・・。」

眉を情けなく下げ、困り顔の男・・・、前者だったのか。
鄙鬼は、目を細める。
いや・・・、情けないふりをしているが、この男何かが変だ。
そう考えていると我慢の限界に達したのか獣が飛び掛って来た。
男の方ではなく、私に・・・、だ。

「っやめろ!!・・・ちっ!逃げろ!!」

男が叫ぶ。
私は、それを無視し背負っている金棒を持ち、先端を獣へ向けた。
動物に言うことを聞かせたいのなら、強さを示せばいい。
敵わないと思わせる程の強さを。

「貴方、私に勝てないでしょう。」

殺気を込めて睨む。
獣は分かりやすい程に、私に恐怖した。
獣は速度をゆっくり落とし、私に近づく。そして、媚びるように鼻を私に押し付ける。
男の方を見ると目を見開き此方を見ていた。

「お、前・・・、なんっ、え!?」

何をそんなに驚いているのだろう。これは、当たり前の結果なのに・・・。

「・・・お前、何だ。」

深呼吸をしたと思ったら何をつまらない事を・・・。

「私は、鬼・・・ですよ。」

「鬼・・・?」

暫く呆けていた男は、考えが纏まったのか表情を驚きに変えた。

「鬼って、あの鬼か!!?」

「どの鬼を想像しているか分かりませんが、鬼です。」

そう言うと顔を輝かせる男。なんて、分かりやすい。
まるで仕事を貰えた時の私みたいだ。








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