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もう迷わない辿り着けるまで〔気象系BL〕

第10章 落魄



夏休みも終わり、
五十嵐学園にもいつものにぎわいが
戻ってきていた。

この頃になると、3年の美術担当である
智の授業は、一斉に受験勉強をする生徒達を
見て見ぬフリをするのが毎年の恒例行事と
なっていた。

2学期の成績で志望大学が決定するとあって
智はしかたがないと思っていた。

課題を出しても提出してくるだけマシだと……
幼稚園児以下の絵でも、
智は何も感じなくなった。

採点中の絵をボンヤリと眺めるながら
不意に、美術準備室の窓から外を見上げた。

いつの間にか、入道雲が鱗雲へと変わっていた。
そのことに気がついた智は、
ようやく翔と別れてから、
もう1ヶ月もたったのだと気がついたのだった。

むろん、あれ以来、翔とは逢ってない。
代わりに雅紀が、時々お見舞いに
行ってくれていた。

一緒に行こうと誘ってくれた事も逢ったけど……
家族の居ない時に行くことに
後ろめたい気持ちになり断った。

雅紀は、翔の経過を事細かに報告してくれた
それだけでもすごく嬉しかった。

退院したと聞いた時、
一度は正式に謝罪した方がいいかと
思って家に連絡をしたが、電話に出た母親に
丁重に断られてしまった。

翔のケガは本人の不注意が招いたものだと
母親は智に言い張った。

お腹を痛めて産んだ自慢の息子に
男の恋人がいるなんてことは、あり得ない。

だから、今回のケガは誰かと
争ったものではなく。
休日の不注意から招いた
不慮の事故だったと……。

だから、高校時代にほんの一時だけ
美術を担当してもらっただけの先生に
わざわざ見舞ってもらう必要はないと…………

そうやって何もなかったことにすることで
息子の将来を守る道を選んだのだ。

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