第115章 紀州動乱
京での始末を終え、大坂へと戻った夜
戦の喧騒が嘘のように城の中は静まり返っていた。
天主の居室へ入った途端、朱里はほっと息を吐く。
「……帰ってきたんだ」
溜め息とともにぽつりと零れた言葉には安堵の色が滲んでいた。
城を離れていたのはほんの数日だが、随分と長く感じられる。
背後で、襖が静かに閉じられる音がした。
「朱里…」
甘く名前を呼ぶ声と同時に、背後から腕が回される。
「んっ…信長様……」
振り返る間もなく、背中からふわりと抱き寄せられる。
鎧を外したばかりの身体はまだ熱を帯びていて、戦の名残を感じさせた。
「慣れぬ格好をして…疲れただろう?」
耳元で囁かれる声は甘く、どこまでも優しい。
戦場での格好のまま高く結い上げた髪をさらりと撫でながら、露わになった首筋に唇が押し付けられる。
「あっ…んんっ…やっ…」
ちゅううっ、と強めに吸い付かれて力が抜けてしまいそうになる。
思わず身を捩り、逃れようとするけれど、信長の腕に強く抱き締められていて叶わない。
城に戻り、互いに戦装束を解いただけで湯浴みもまだだった。
「っ…信長様っ…待って…あっ…」
何とか顔だけ後ろに振り向けると、すぐ近くで信長と目が合った。
戦を終えたばかりの深紅の瞳は、燻る熱と滾りで飢えた獣のようだった。
「待たん」
はあっ…と熱い吐息が首筋にかかる。喰らい付かれそうな熱情を感じて、背筋がぞくりと震えてしまう。
「んんっ…だめっ…さ、先に湯浴みを…」
「……湯など、後でいい」
低く言い切る声に、有無を言わせぬ響きが混じる。
衣の上から身体を弄る手も熱を帯びていて性急だった。
信長の熱に流されそうになりながらも、朱里は何とか正気を保とうと首を横に振った。
「だ、だめです…っ、先に汗を流して…信長様、お疲れでしょう?今宵はゆっくり休んで…」
「馬鹿なことを申すな」
不満げな声音とともに、いきなりカプリと首筋に歯を立てられる。
「っ、んんっ…!?」
強くはない甘噛みだったが、久しぶりに与えられる甘い刺激に腰の奥がぞくりと震える。
長らく離れていたせいで人恋しくなり、触れ合いに飢えた身体は少しの刺激にも敏感になってしまっているようだった。
「信長さまっ、やっ…」
「っ……」
拒む言葉とは裏腹に欲を孕んだ潤んだ瞳で見上げられ、信長は思わずごくりと唾を呑む。
