第3章 This Story Has Already Begun
いつも一緒に帰る一護に一言告げて、足早に学校を出る。
「ごめんください」
「綴サンじゃあないですか。どうかされました?」
綴が放課後出向いた先は駄菓子屋浦原商店。そこの店主の浦原喜助への用だった。
「えぇ……。あの……」
言い淀む綴に事情を察したのか浦原は奥の茶の間に通す。握菱が用意したお茶を啜り一息ついた後、浦原は口を開いた。
「怖くなったんスか?黒崎家の皆さんが、黒崎サンがケガするのを見て」
綴の全く動かないその姿は肯定の意を表していた。その姿に眉を顰める浦原に、綴は思わず俯く。追い討ちをかけるように浦原は言葉を続けた。
「今更もう遅い。事態はもう進み始めてる」
「分かってる」
一つ間が空いて綴の重い口が開いた。その声に浦原は来た時のように顔の表情を緩め、俯いている綴の頭をポンと撫でる。
「なら大丈夫。アナタが今のところ出来ることは無いんですから」
綴が左腕に跡がつくくらい強く掴んでいる右手を宥めるように浦原が両手で包む。それはとても優しいようで、酷く現実を突きつけられる温もりであった。
「もう戻れない」
黒崎家の前で虚に対峙した時に決めたのだ。
「ごめんなさい、大切な人達を作ったのが久しぶりだったから動揺しちゃった」
ありがとうと浦原にそう言ってニコリと笑い、綴は振り返らず浦原商店を後にした。その綴を見る浦原の表情を知る者はいない。
「あんなにキツく言って良かったんですか?」
綴が帰った後に襖を開けて入ってきた握菱が湯飲みを片付けながら浦原に聞いた。
「これしか道がないですから。彼女も、アタシたちも」
「彼女の負担が大きすぎる気もしますが」
そういう握菱の口振りは先程の浦原を咎めているようで「そうっスね」と浦原は苦笑いで返すしか無かった。