第4章 君が笑顔の日【不死川実弥】
帰宅し、実弥様にお茶を煎れている。
なんて…報告しようか。喜んで下さるだろうか。……流石に怒られる事はないだろうけれど。
『あの…私の体調不良の事ですが…』
「おう。胡蝶はなんて言ってた?」
『実弥様……、私…』
歯切れ悪く言い澱んでいる私を、少し心配そうに見つめる。
『……子どもが、…子どもを授かりました。…あなたのお子です。』
時間が止まったよう…とはこんな時の為の形容だと、今更ながらに気付く程、実弥様は私の顔を見つめたまま大きな目を更に大きく見開き、ピタ…と動きが止まってしまった。
何秒ほどそうしていたか。…いよいよ何も仰らないので心配になってきた。喜んで…もらえなかっただろうか…?
『…実弥様?』
「子ども…。」
小さく呟き、そっと私のお腹へ手を伸ばす。
「…いるのか。此処に。俺の子が…?」
『はい。産み月は来年の6月頃だそうです。産婆さんをよんで頂き診てもらいました。』
「……そうかァ。」
変わらない表情。…あまり喜んでもらえなかったのだろうかと少し不安になった。
「…おい。」
『!…はいっ!』
「…お前の母ちゃんと父ちゃんはなァ、お前が来るのを、ずっと…ずっと待ってたんだぞ。…元気に生まれてこい…。」
驚きと、嬉しさでどうにかなってしまうかと思った。
お腹をさすりながらまだ見ぬ我が子へ話しかけている。その表情は見たことない程に優しく…その手を通し愛おしいという気持ちが伝わってくるようだ。
先程、胡蝶様の屋敷で散々泣いたはずなのに…また涙が溢れてくる。
実弥様が優しく、抱きしめてくれる。その広い背中を着物がよれるのもお構いなしにギュっと抱き返した。
『…さね、み…さまっ…』
「身体、大事にしてくれ。…紗英」
ありがとうな…。小さな声、でもハッキリとした口調で囁いた。
身体を離すと、視線が絡み…ーー。
吸い寄せられるように、実弥様に口付けた。
「…泣き虫な母ちゃんだなァ」
溢れる涙を実弥様の指がすくう。
そう言う、実弥様だって少しだけ目元が赤く滲んでいる。
泣き虫なのは、きっと今日だけ…お互い様。