第4章 肆ノ型. 共同護衛 ~不死川実弥・伊黒小芭内の場合~
そんな3人の視線を感じ取る余裕もない鬼は、ただただ己の首がいつ飛ぶのかと怯えるばかりだ。
そんな心情を知ってか知らずか、刹那は依然穏やかに優しく語りかける。
『鬼さん、私はね自分の行いを悔い後悔するような鬼はとても好きなんです。その人は弔いに値しますからね。でも貴方は少し違うよう。後悔するどころか今も尚、人を食うことに何も感じていないでしょう?ですから....』
静かに当たり前のように続いた次の言葉に、鬼は凍りつく。
『とても心が痛みますけれど、気が狂う程苦しく死んでくださいまし。』
そう言って深く息を吸う刹那。
撫でるように鬼の首から引かれた刃から黒い影がどろりと湧き出た。
『宵の呼吸、壱ノ型...悲憤の影』
「うわああああああ!!!」
刹那の腕から解放された瞬間、うねるように自分に巻き付く影を振り切りながら逃げ惑う鬼。
それでも影は鬼の足から這い上がり、鬼の四肢を締め上げる。
途端響く鬼の悲鳴と、それに混じるように影から聞こえる声は犠牲になった女達の鬼を責めたてる声だ。
[痛いよ]
[食べないで]
[死にたくない]
[なんで私なの]
[お前が死ねばいいのに]
「あ、ぐ、辞めろ聞きたくない!やめろ!!」
鬼の訴えも虚しく
ギチギチと音を立てながら鬼を締め上げる影の隙間から、真っ赤な血が吹き出る。
「嫌だ!!死にたく...ない...ぎゃあああ゛!!」
『その影素敵でしょう?恨まれているものほどより強く締め上げ、食った数の分だけ首を切り落とすんですよ?大丈夫、最後の一振りまでは死にませんからね。』
当たり前のように言う刹那の言葉に絶望の顔を浮かべる鬼。
こんな事ならいっその事一思いに殺してくれた方がいい。
だがそれを目の前の鬼狩りは許してくれないだろう。
(俺は何を間違えたんだ....)
苦痛に耐えかろうじて残った意識の中で考えたのは、今更すぎるそんな考えだった。