第11章 拾壱ノ型. 無限列車
「ははは、死に損なってしまった...泣くな少年達。」
務めて明るく発した声は、思いの外弱々しくそれで更に泣いてしまう3人に眉を下げる。
動く範囲で首を動かし、死の間際一目だけ会うことの出来た目当ての人物を探そうとしたが見つからない。
俺の考えを見抜いたのか、傍にいた胡蝶が向こうですよとそっと教えてくれる。
何とか振り向いた先には蛍清に支えられ肩で息をする刹那の姿。
他の3人は隠の手伝いをしているようで、遠巻きに派手な髪がちらほらと見えた。
(刹那...)
やっと見つけた己の想い人に手を伸ばそうにも、出血と痛みとで言う事を聞かない体に苛立ちが募る。
そんな俺に気づいたのか、こちらを向いた刹那。
俺が言葉を発するよりも早く、泣きそうな顔で一目散にこちらへ走ってきた。
およそ普段の彼女では想像出来ないほどに取り乱した様子から、どれだけ自分が刹那に心配を掛けたのか手に取るように分かって胸が締め付けられる。
そのままの勢いで地面に転がったままの俺を抱きしめてきた刹那の体温に、不甲斐なくも涙が出た。
『杏寿郎、杏寿郎っ...よかった...本当に、ああ、杏寿郎...』
泣いているのか、途切れ途切れに聞こえる刹那の声があまりにも悲痛で、無理矢理体を動かし震える彼女を包み込んだ。
「すまない、刹那...君に辛い思いをさせた。」
言いながら先程よりも強く刹那を抱きしめた。
それに答えるように刹那もまた、俺を抱く力を強くする。
愛しい。
君が愛しいんだ刹那。
込み上げる刹那への想い。
竈門少年に全てを託したあの瞬間、確かに死を受け入れたはずなのに
俺の元に走ってくる刹那を見た途端、
俺は、
未練がましく生きたいと思ってしまったんだ。