第9章 玖ノ型. 母襲来
母という単語にその場にいる全員が、今この場で泣き出しそうな顔をするその女が噂の露柱だと察する。
手紙の語り口調から想像していた露柱の印象とかけ離れた目の前の露柱に、戸惑う柱達。
それに気づき咳払いをした朱嘉によって現状を理解したのか、露柱は慌てたように刹那から離れ柱達に頭を下げた。
「これはすまぬ。挨拶も忘れ、見苦しいものをみせてしもうたな。妾は暁天 玉藻。元露柱で、刹那の母じゃ。」
ころころと表情の変わる露柱に柱達はタジタジだ。
しかしそんな柱達を尻目に、鬼神達の表情は強ばったまま。
何故なのか。
柱達がその理由を知るのに時間はかからなかった。
「朱嘉。」
先程までにこにことしていた露柱の顔が、朱嘉の名を呼んだ瞬間般若のように変わったのだ。
その場の気温が一気に下がる。
「お前は、刹那の護衛であろう?なぜこのような事件が起きるのじゃ。」
「玉藻さん、それは...」
「烟霞。」
答えは要らないと言うように朱嘉の言葉を遮り烟霞へと視線を移した露柱、もとい玉藻。
「お前もじゃ。刹那を危険に晒した上に人間に八つ当たりしたらしいのう。だからお前は餓鬼だというのじゃ。」
「言い訳の、しようもありません。」
「蛍清、お前は刹那の影の中に1番よくおるのに何故そう行動が遅いのか。」
「うう、玉藻さん辛辣だなあ。」
「紫苑、事を伝達したのはいい判断じゃ。しかし、妾がそれでお前を許すと思うてか?」
「玉藻様、決してそのような事は...」
「黙れ。」
玉藻の圧に沈黙が流れる。
昨日あれ程までに鬼殺隊に恐怖を味わわせた鬼神達はすっかり萎縮してしまい、皆玉藻に頭が上がらないといった様子だ。
しかし、ピリピリとしていた不機嫌丸出しの玉藻も
「母様、私が朱嘉達を呼び出すのが遅かったせいなのです。そんなに皆を責めないで。」
愛する娘の言葉には弱いらしい。
般若のようだった顔はみるみると眉が下がりしょぼんと肩を落として、だってだってと呟いている。
まさに百面相。
刹那のお陰で一気に緩むその場の雰囲気に、安堵のため息がそこかしこから聞こえた。