第10章 No.10
ーインハイ当日
インハイまでの間、
本当に新開とは挨拶と軽い会話をする程度だった。
図書委員の当番にはもちろん来れないし、
お昼も部活のみんなとずっと険しい顔で食べてて、
授業終わったらすぐに部活へ向かう。
だから、気づいたら当日になっていて、
私は今、てりつく太陽の下、
江の島にいる。
(も~~~、みんなどこ…。)
様々な高校のテントが張られている会場の中を私は一人でうろうろしていた。
巻島「あれれ、何してんショ。」
「あー巻ちゃん…助かった…。」
巻ちゃんとは尽八を通して、何度か話したことあった人。
尽八が一方的に大好きな千葉県総北高校のクライマー巻島裕介だ。
巻島「クハッ。箱学のテントなら、こっちショ。しょうがないから、連れてってやる。」
「助かった…。」
巻島「飲むか?」
巻ちゃんはストローの刺さっているポカリを私に差し出した。
「飲む…。」
私は勢いよくストローを吸い、一瞬でポカリを空っぽにしてしまった。
巻島「すごい…喉乾いてたんだな…。」
そしてついに、
巻島「着いたショ、箱学のテーーーー」
東堂「ーーー巻ちあああああん!」
巻ちゃんが箱学のテントの場所を教えてくれる前に、尽八が巻ちゃんを見つけ、飛びついてきた。子犬か。
巻島「やめろ東堂…熱いショ。」
東堂「ははーん!!やっと勝負が出来るな巻ちゃん!俺はもうこの日を楽しみにしていたんだ!!
尽八と巻ちゃんがわちゃわちゃしていた仲、
私はもちろん一人の男子を探していた。
「あ、新開…。」
髪の毛をかき上げ、タオルを首から巻き、
優しい瞳でこっちを見た。
新開「ちゃん…来てくれたんだね!」
「当たり前じゃん!みんなの頑張る姿目に焼き付けたいし!」
新開「みんな…?」
いじわるっぽい顔でこっちをみる新開はまたバキュンポーズを私に向けた。
新開「ちゃんは俺だけ見てればいいよ。」
バキューン
そう言った新開は、脳内パニックを起こしている私を置いて、テントを出て行った。
東堂「巻ちゃん巻ちゃーん!」
という尽八の声だけがテントに響き、
照りつく太陽がさらに暑く感じた。