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いつだってあなたのことが

第5章 微笑みの在り方


彼女は、僕の笑顔が好きだなどと言う。
僕にとっては、蛍の笑顔の方がずっとずっと素敵だと思うのにな。


彼女は様々な人に笑顔を向ける。その笑顔は朗らかでたおやかで。周りの人も釣られて笑顔になる。そういう時、蛍は心の底から楽しいんだろうな、と感じる。

僕に向ける笑顔だって、そう。時にはちょっと照れたり涙ぐんだりしながら。時には狼狽えたりしながらも、でも僕の手を握り返したり、そっと彼女に触れた僕の手を愛おしそうに見つめたりしながら、心の中のものを滲ませるようにしてこちらに笑いかける。
そんな蛍の笑顔には、時には眩しさすら感じる。


──僕の笑顔とは違うと思う。
僕の笑顔には何も込められていない、何もない。ただただ取り繕っただけの、色んなことを難なく捉えるためだけの笑顔。
それについてとやかく考えることはしてこなかったけれど、蛍の溢れんばかりの笑顔を前にすると、その意味を考えてしまう時がある。

そんなことを彼女に告げたら。彼女は少し悲しげに眉を寄せたけれど。



「…私はそんな宗次郎の笑顔に心を奪われたんだよ。」


優しい笑顔を浮かべた。


「綺麗だなぁって。いつでも穏やかで冷静で、強くて。そんなあなたの笑顔だから惹かれたんだと思う。」

「……本当ですか?」

「本当。ずっと、憧れでした。」


──そっかぁ、そうなのか。


「だけど、」

「はい?」

「時には休んでもいいんだよ。」

「…?」

「ううん、何でもない。」


綻ぶように微笑みをこぼした蛍。
その時、なぜか顔を見られたくないと感じて。
蛍を自分の胸に抱き寄せた。



「…宗次郎?」

「蛍。少しだけ、こうさせてください。」

「…うん、大丈夫だよ。大丈夫だからね。」


背中に添えられた蛍の手は暖かかった。


あなたは僕のすべてを受け入れて、こんな笑顔を好きと言ってくれるけど。

──いつか僕も蛍みたいに笑うことができればいいなぁ。

蛍みたいに優しくて暖かくて…そんな風に笑える時を僕もいつか。







微笑みの在り方


(あなたの笑顔が、あなたの心が、好き。)
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