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いつだってあなたのことが

第22章 隠れては溢れる愛の欠片


──何がいけなかったんだろう。

目を見開きながら一生懸命考えを巡らせる蛍。
その視線の先には、少し黒い笑顔でこちらを見下ろして。彼女を押し倒したまま静止している宗次郎の姿があった。
まるで獲物を追い詰めて、残るは食すだけ、とでもいうかのように。涼しげな笑みを彼は蛍に向け続けているのであった。


(……ちょっと言っちゃっただけなのに。)


ひやりとしたものが背中を伝う。
この状態から何とか抜け出したいけれども、何せ仰向けの身体にしかと馬乗りにされているものだから、状況を変えることはとても難しい。
屈んでこちらを見下ろす宗次郎。どこにも逃げ道はない。


(これ以上…なんて、ないよね…?)


少し縋るような目を浮かべてみるものの、手を抑え付けているその腕の力は少しも緩められることはなく、蛍を床に縫い付けたまま。四肢を動かすことすら許されなかった。
そうして宗次郎は蛍に迫るように首を傾けて、囁いた。


「抵抗しないんですね。」


吐く言葉にはまるで似付かわしくないような、朗らかな声を向けられて。けれど静けさを纏ったその笑顔が、彼の行動は決して冗談ではないということを物語っていた。
手首を抑えている宗次郎の手、微かに指先が蠢いて蛍の柔らかい手のひらを擽るように這う。
思わずぴくり、と身体が反応したけれど、俄然宗次郎は蛍を解放することはなく。そのままにこりと穏やかに笑いかけた。


「黙認してるんですか?このまま。」
「…無駄かな、と…」
「へえ、ここまでくるとさすがに物わかりが良くなるんですねぇ。」
「……あの、宗次郎…ほんとに怒ってるの?」
「怒る?僕がですか?…おかしな人だなぁ。」


にこにこと細目だったはずの目がゆっくりと開いて。その瞳に蛍の姿を映す。
じっと、蛍を見据えて。口元にまた笑みを浮かべて。


「あいにく、そういったことには縁が無いですから。何のことだか。」
「…」
「…でも、蛍さんが煽るものですから。」


衣擦れの音。仕草だけは蛍をあやし包み込むように。宗次郎の背が丸められ、彼女の目の前に顔を寄せて。ゆっくりと、恨めしげで艶めかしくもある瞳が蛍を射抜く。
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