第9章 つつましやかな愛寵
※部下設定ヒロインです。
「つ、疲れた……」
アジトに辿り着き任務完了の報せを行ったものの、蛍はもう気力も体力も磨り減らしてしまっていた。
遠方への出奔で今回は過酷な任務だった。それ故今回も完遂出来たことに満足感を得てはいたが、今は何より憔悴し切った身体を癒したかった。
「…今日はもうこのまま寝てしまおう…」
着物だけ着替えて…お化粧はもういいかな。
そんなことを考えながら髪紐を取り去る。長時間結び固定していた跡が髪に残っていた。せめて櫛を入れた方がいいのだろうと思いはしたけれど、蛍はそのまま手櫛で整えることすらせずに着物に手を掛ける。
解かれた帯が落ちる。前を開けて袖に通った腕を抜こうとしたところで、
「蛍さん。」
「!」
思いもよらない事態に息が止まるかと思った。
──瀬田様。
扉の外から呼び掛ける声。
考えるより先に既にもう身体は動いていた。
「はっ、はい…ただいま!」
脱ぎかけた着物を直し襟を正し、慌てて帯を締め直す。
失礼のないように、且つ最低限の時間と手間だけ掛けて髪を結い直し、速やかに扉を開いた。
「お待たせしてしまいすみません、瀬田様。」
「任務から戻ったと聞きました。お疲れ様です。」
にこ、と笑顔で出迎えられる。
「申し訳ありません、方治様には電信を送ったのですが瀬田様にご挨拶に上がるのは夜分ですし──」
「…蛍さん。」
「はい?」
「お疲れでしたよね、慌ててまた着替えさせてしまってごめんなさい。」
「えっ、そ、そんな滅相もありません…」
かあっと頬が熱くなる感覚。筒抜けだった、どうしよう恥ずかしい、とおろおろし出す名無しに宗次郎は優しく語りかけた。
「そんなに固くならなくてもいいんですよ。」
「で、ですが…」
慌てふためく彼女の肩をふわりと抱く。
「すみません。あなたに会いたくて来たんです。」
「あ…」
「お疲れ様。」