第1章 いつだってあなたのことが
※遠出していた宗次郎が帰ってくるお話。
※後書きに北海道編内容含んでいます。
「蛍さん、ただいま。」
「!おかえり、宗次郎。」
愛しい人の声が響く。
──待ちに待ったその笑顔がようやく沢山見られる。
宗次郎は頼りになる人だと知りながらも、どこか子供のように純真なあどけなさも持っていることも知っているから、彼が帰らぬ間なんだか気が気でなかった蛍は、充てられたように忙しなく勝手口に向かうのであった。
「…おかえり、宗次郎。」
目にしたのは変わりない大好きな笑顔。
何度も何度も夢見ていたのだけれど、ようやく目にするとどう動じればいいのか一瞬のうちに見失った。
──沢山言いたかったこと、聴きたかったことがあったはずなのに。先程の言葉は蛍の唇がようやっと紡ぎ出せた言葉だった。
「…」
「…ふふっ、大丈夫ですか?」
「えっ…?」
くすくす、と笑みを漏らす宗次郎。
少しだけ伸びてさらさらと揺れる前髪。その下で柔らかく開いた瞳。
「さっきも聞きましたよ。おかえり、宗次郎って。まったく一緒の言葉。」
「…そうだっけ。」
「まさか僕のこと忘れてたなんて言いませんよね?」
「そんなわけないでしょ…ただ。」
「ただ?」
「嬉しくって…何を言えばいいのかなと混乱しちゃって。」
何を馬鹿な話ばかりしてるんだろう、と我ながら呆れ返りながら胸の内を呟いていくけれども。
安堵感が広がる中、共に胸の高鳴りも感じていた。
「蛍さん。」
にこりと彼は微笑む。そして。
「会いたかったです…」
あたたかな温もりに心が絆されていく。
宗次郎の腕の中に包まれていた。
そっと彼の顔を見上げると、いつもと変わらぬ優しい微笑み。だけれども、少し高揚しているかのようにほんのりと紅が薄付いていた。