第13章 予選会
『10位―――寛政大学』
心で繰り返した大学名が耳を通過した。
一瞬の静寂。
そして……
「よっしゃああぁぁーっ!!」
「やった!やったぁーっ!!」
「うぉぉおーっ!!」
歓喜の叫びがこだまする。
10位、寛政大学。
確かに掲示板にも黒い文字でそれが記されている。
夢じゃない…夢じゃない…現実だ…。
「おめでとーう!!みんなぁーっ!!」
「きゃーっ!!すごいすごいすごいっ!!」
葉菜子と共にみんなの元へ走る。
「ユキくんっ!おめでとう!!」
興奮した勢いのままユキくんに抱きつくと、私の体はそのまま持ち上げられた。
「舞!行くぞ!箱根!」
「うん!あははっ!目がまわるよー!」
まるで父親が子どもにそうするように、私ごとクルクル回り出すユキくん。
このメンバーでならきっと箱根に行けると信じてきたけれど、いざ夢が現実となって目の前にやってくると、胸の奥から感動が満ちてくる。
ユキくんと歓びを分かち合えたことが嬉しくて堪らない。
そして、こんな気持ちを教えてくれたみんなに、心から感謝したい。
ふと目の前を見ると、ガッツポーズをしたまま天を仰ぐハイジくんが佇んでいた。
「ハイジさぁーんっ!!」
興奮状態の双子と葉菜子が真っ先にハイジくんにダイブし、他のメンバーも釣られて次々と後に続く。
芝生の上でミルフィーユ状に重なっていくアオタケのみんな。
こうなったら思いっきりはしゃぐしかない。
私とユキくんも、その塊の上に飛び乗った。
―――……
「ユキくん。LINE来たよ」
「誰?」
私が手にしているスマホをユキくんが覗く。
[テレビ見た!!すげぇ!!]
[マジで箱根行くとか!マジで!?マジか!!]
[つか、あとでビール届けるから!!祝勝会で飲め!!]
立て続けに3件、送り主は同じ。
「豪ちゃんか!」
「ふふっ、喜んでくれてるね」
「何かくすぐってぇな」
夕暮れの帰り道。
興奮冷めやらぬまま、みんなで駐車場まで歩いた。
誰が何区を走るのか予想しよう、なんて声も。
ぼんやりとした空想ではなく、それぞれが10の区間のうちのどこかを走る―――それは必ず訪れる現実なのだ。
夢が、夢ではなくなった日。
年明けの1月2日、3日。
寛政大学長距離陸上部は、東京箱根間を10人で繋ぐ。