第7章 You Can Cry
救援要請を受けて駆けつけた先に待っていたのはあまりにも無残な光景だった。
地面に無造作に転がっているのは、ほんの数刻前に別れたばかりの隊士たち。ふらふらとその中のひとりの傍へ近づいた沙羅は、呆然とその名を呼んだ。
「菜月……」
いつも元気が良くて、明るい笑顔を振りまいていた無垢な少女。
慣れない任務に身構える彼女に「大丈夫」と声をかけたのはつい先ほどではなかったか。
跪(ひざまず)き、頬に触れる。
まだこんなに温かいのに。
沈黙する沙羅の背後から、部下の隊士が遠慮がちに声をかけた。
「調査中に破面と接触した模様です。数は二体。霊圧濃度からすると……恐らくは十刃かと」
「十刃……」
藍染の元に集う数多くの破面の中でも、圧倒的な力を有するとされる最強の十体。そんな相手にこのうら若き少女は立ち向かったというのか。
慣れない鬼道を放ったのであろう左手は赤く焼けただれ、右手は息絶えてなお斬魄刀の柄を握りしめていた。
――護ってやれなかった。
『この十三番隊の全員があなたの味方だよ』
そう声をかけたとき、少女はほっとしたように笑って頷いたのに。
なにひとつ……護ってやれなかった。
「副隊長……」
気遣わしげに声をもらす隊士に、背を向けたまま告げる。
「彼らを連れて帰還の準備を。尸魂界へ戻り次第葬儀を執りおこないます」
哀しんではならない。虚と闘い散った死神は、魂の安定のためその身を呈した英雄として瀞霊廷で手厚く葬られる。
よって残された者は嘆き哀しむのではなく、栄誉の死を称えなければならない。
どんなに辛く、苦しくとも。
また、隊士の死をその家族や近しい者に伝えるのは副隊長の役割とされていた。
副隊長は、自隊の隊士は凶悪な敵を相手に勇敢に立ち向かい、最期まで死神としての誇りを貫いたのだ――と、揺るぎない敬意を表して家族に話す必要があった。
決して涙など見せてはいけない。
どんなに辛く……哀しくとも。