第1章 Under the Cherry
「十三番隊第七席草薙沙羅、ただいま帰還しました」
瀞霊廷(せいれいてい)、十三番隊隊舎。
その隊首室の前で沙羅が声を上げると、部屋の主である十三番隊隊長――浮竹十四郎は笑顔で彼女を迎えいれた。
「ああ、おかえり沙羅。急な任務で悪かったな。大丈夫だったか?」
「はい。東四十八地区の暴動は完全に鎮圧されました。怪我人は数名出ましたがいずれも軽傷ですし、管理区の者には今後の管理体制について十分に指導しました。当面は再発の懸念もないと思われます」
「そうか、ご苦労さん」
浮竹に一通りの報告を終えたところで、沙羅は気遣わしげな視線で上官を見上げる。
「それより隊長。横になっていなくて大丈夫なんですか? 身体に障るんじゃ――」
「心配ないさ。今日は調子がいいんだ。それにたまには身体を動かさないとかえって不健康だしな」
そう言って肩をグルグルと振り回してみせる浮竹にも、沙羅は硬い面持ちを浮かべたまま。
「そんなこと言ってこの前みたいに突然倒れたりしないでくださいね」
「ははは、手厳しいな沙羅は」
「笑いごとじゃないですよ! こっちはビックリして心臓止まるかと思ったんですから!」
「実際心臓が止まりそうだったのは俺だけどなぁ、なーんて……冗談だよ、そんなに怖い顔するなって」
苦笑いする浮竹を一瞥して沙羅はそっぽを向いた。
まったく、この隊長ときたら。周りがどれだけ心配しているかわかっているのだろうか。
数週間前に突然隊舎で倒れたときだって、それこそ瀞霊廷中がひっくり返るくらいの大騒動になったというのに。(結局はただの寝不足によるものだということが判明し、その後一週間浮竹は寝室から出ることを認められなかった)
「スマンスマン、悪かったよ。これでも食って機嫌直してくれ」
「……子供ですか私は」
「ん? 嫌いか?」
茶菓子の詰めこまれた籠を差しだして首を傾げる浮竹。
頭は切れるくせにこういう緩いところもあるのが、この隊長の憎めないところでもあったりする。
そしてそれが、彼が多くの隊士たちから慕われる理由のひとつでもあるのだけれど。
「……好きです。ここのお饅頭、おいしいし」
まだ少し膨れつつも饅頭を手に取った沙羅に、浮竹は嬉しそうに頬を緩ませた。