第3章 A Strange Death
虚圏へ帰還後、主への報告を済ませたウルキオラは自宮へ戻っていた。
さすがに報告の場へは持ってはいけまいと自宮の前に置いていった包みのリボンをようやく解く。中から現れたのはふんわりと焼きあげられたマフィンだった。
「……スポンジか? これは」
その手の食べ物に精通していないウルキオラは眉間に皺を寄せて首を捻るものの、やがて中のひとつを手に取ると無造作にちぎって口に運んだ。アーモンドの香ばしさとともに甘い香りが口いっぱいに広がる。
もう一度、次は先ほどよりも一回り大きめにちぎって口へ放った。音もなく飲みこんで、さらにもう一度。
「…………」
これまでは食事に美味いも不味いもあるものかと思っていた。腹を満たせれば同じことだ、と。
だが。
「……美味いな」
マフィンを丸々3個綺麗に平らげてからウルキオラは小さく呟いた。背後に現れた気配に気づいたのはこの直後。
「お? ウルキオラじゃねぇか。帰ってたのか」
己の名を呼ぶその声に、ピクリと反応し首だけ振り返る。
「美味そうなモン持ってるじゃねぇか。俺にもよこせよ」
彼の手の中のマフィンを目ざとく見つけたヤミーはそう言って鼻をひくつかせて近づいてきた。
……果たしてこいつは、俺の名にほんのわずかな意味でも見いだしているのだろうか。
そう考えた途端、ウルキオラの口元を笑みが走った。
「――だめだ」
「あん? いいじゃねぇかひとつぐらい」
眉根を寄せるヤミーを振り返り、ふっと瞳を細めて笑う。
「貴様にはやらん。……これは俺の物だ」
恨めしげに文句をたれるヤミーを無視して自宮に入りながら、ウルキオラの思考はまったく別のところへ飛んでいた。
『――ウルキオラ!』
『またね』
ならばあいつは
どんな気持ちをこめて俺の名を呼んだのか、と――
***
《A Strange Death…風変わりな死神》
ウルキオラ視点でした。