第2章 Smile inside of the Mask
「もー! なんで私が探さなきゃいけないのよ! 乱菊め、帰ったら絶対おごらせてやるんだから……」
ぶつぶつと小言をもらしながら沙羅は現世を徘徊していた。
右手には乱菊から手渡された「現世で行った場所リスト」が握られている。そこには一体どうすれば三時間でこれだけの店を回れるのかと目を疑いたくなるほどの数の店名がびっちりと書きこまれていた。
こんなリストを作る暇があるなら自分で探して来い! と思うのだが、今さら文句を垂れても遅すぎる。乱菊にはまんまと逃げられた。
そんなこんなで、不貞腐れつつも仕方なくリストにあがっている店を片っ端から調べている沙羅なのであった。
……それにしても。
「……どこにもないじゃないの」
目につく場所をしらみつぶしに探すものの、報告書はいっこうに見つからない。
そのまま全ての店を探し終え、とうとうリストの最終地点――沙羅と乱菊が合流したあの公園まで辿りついたところで、沙羅はぽつんと途方に暮れた。
「……ない。ない! なぁーいっ! 乱菊ってばどこに落としたのよー!」
霊体であるのをいいことに周囲も憚らず大声で喚き散らす。
朝から晩まで身を粉にして探し回ったというのに切れ端のひとつも見つからないなんて。そりゃあ叫びたくもなる。
……というのはあくまで独り言のつもり、だったのだが。
「――相変わらず騒々しいな」
どこか聞き覚えのある声が響くと同時に、頭上で木の葉のさざめきが起こった。
「あ――」
桜の大木の頂上近くに見える白い影。
思わず口を開いたものの、呼ぶべき名を知らないことに気づき沙羅は「昨日の、」とだけ告げた。
「昨日と違って今日はずいぶんと熱心だな」
一日中現世を駆けずり回ったおかげでヘロヘロになっている沙羅の姿を破面は物珍しそうな眼差しで見おろしている。
「“昨日と違って”は余計よ。いつも熱心です」
「なにか探しているのか」
「え?あ、別になにも?」
あははと笑いながら首を横に振るものの、視線は思いっきり明後日の方向に泳いでいる。
そんな沙羅を破面の男は不審なものを見るかのような目つきでじっと見据えていた。