第5章 「愛しさを伝えて」織田信長
春の訪れを感じるようになってきた。
暖かな風がそよそよと吹き込む安土城の天主で、
舞は戦場へと向かった信長様の帰りをただひたすら待つことにした。
日が暮れるのも段々と遅くなっていき、
外の景色は酉の刻になってもまだ明るかった。
「(暖かいな…。)」
夕暮れの日差しが差し込む回廊で、
安土の町並みを見下ろしながら、
暖かなこの季節を肌で感じて目を閉じる。
「舞」
不意に後ろからよく響く低い声が聞こえた。
この声は私がよく知っている。
いつだって聞きたい愛おしい人の声だ。
私は帰ってきたんだなと嬉しくなって、
早く顔を見たいがために後ろへと振り向くと──
チュッと頬に口付けをされた。
私は驚いて顔を真っ赤にさせながら、
愛おしそうに目を細めて見つめる信長様を見た。
「の、信長様…お帰りなさい」
「あぁ、ただいま。」
いつしかこうして挨拶するのが二人の当たり前になっていった。
本当は五百年後で過ごしていた私の習慣だったのだが、
信長様が興味を持ち出して、
いつの間にかそう言ってくれるようになった。
「舞、此度の戦で最後だ。
これでもう戦場へ出向くこともないだろう」
私を抱きしめながら、
そう言う信長様の言葉が私には一瞬理解できなかった。
どういうことだろう…と頭の中で考えた。
「…っ!!もしかして!」
私は信長様の言葉の意図を察した。