第5章 Connaissance de la viande.
______朝。
いつものように早朝に目が覚めた琥珀は、
一通りのルーティンをこなしメイクに取り掛かっていた。
「お早う!琥珀ちゃん」
と突然金パイプから聞こえてきた声に、
『おはようございます』と返事をする。
「ちょっと手伝ってほしいんだ。着替えたら出てきてくれないか」
『畑ですか?』
と返事をすると、
「うん、野菜の収穫をね」
『わかりました。朝の支度を済ませたら行きますね』
「頼んだよ!それじゃ」
それきり金パイプから声は聞こえなくなった。
途中だったメイクを済ませ、髪を1つに結ぶと畑へ向かう。
「あぁ琥珀ちゃん!おはよう!
朝早くからすまないね」
と全裸に褌を巻いた格好の慧。
「この時間に起きているのは琥珀ちゃんしかいなくてね…」
『相変わらず先輩も早いですね』
と笑いながら野菜の収穫を手伝う。
「そろそろしたら、創真くんたちも起こしてみるよ」
『そうですね』
と他愛ない話をしながら野菜を収穫する。
「そういえば、」
と慧は気まずそうに切り出す。
「“お兄さん”が、ちょっと…」
『…兄がどうかしましたか』
急に表情が消える琥珀に、
申し訳ないと思いながらも慧は続ける。
「どうかしたというかね、お兄さんが
相変わらず琥珀ちゃんの様子をあまりにも
しつこく聞いてくるものだから困っていてね」
と困ったように苦笑を漏らす慧。
『そうですか…、無視でいいです。
一色先輩にとっては先輩ですから、
そういうわけにはいかないのも重々承知してます。
が、それでも無視でいいです。
余計なことを言わないようにお願いします』
と琥珀には珍しい矛盾の多い台詞に、
慧は眉をひそめる。
「お兄さんと何があったかは知らないけど…。
とても心配しているようだよ」
『何も知らないから、そんなことが言えるんです。
心配している“フリ”をしているだけです。
気にしないで下さい』
とそう吐き捨てると、琥珀は
向こうの根菜畑の方へ行ってしまった。
「難しいね…。
創真くんたちを呼んでこようか」