第7章 キャッホーな奴には少し早い待ち合わせ時間を教えておけ
だが、神威の覚悟も散るに終わった。
飛んできた一羽の烏が、空を何度か鳴きながら旋回した。
それを見上げていた皐月は、その姿が見えなくなると、まるでその場に合わない落ち着いた口調で話す。
「そういえば、君とのデートの待ち合わせ場所は、もっと林の向こうだったかな?」
そう指差す彼女に、神威は目を見開いた。
「こんな土のついた靴では、デートのムードもない。女の支度は時間がかかるもんだ。…男は黙って先に待ち合わせ場所で待っていろ。」
「アンタ、」
「僕の道標は、天なんかではないと言う話だ。」
十数えたら、僕が行くぞ。
神威の目を真っ直ぐ見て、皐月は言った。
「ほんと、手に余る女はこれだからな。」
「良いのですか?皐月様。」
兎が走り去ったあと、ハルもそちらを見つめていた。
「そんな事言っている場合ではないぞ。……もう十たった。」
そういうと彼女は傘を開き直し、林の外へ向かって歩き出した。
「大丈夫ですか?朧様。」
左目を負傷した朧に影がかかる。
目の前ではすでに、朧の軍との戦闘が始められていた。
神威と神楽が同時に軍へ向けて蹴りを繰り出す。
しかしそれは凄まじい勢いで迫る、真っ黒の番傘によって阻まれた。どちらの勢いも相殺されて止まる。
「……お待たせしたな。デートの用意は完璧だ。」
突き出した傘を皐月は後ろへさし直し、自分たちがその傘の影へ隠れるようにした。
夜兎二人の後ろ。
烏の言う通り、ボロボロになった高杉と銀時の姿。かなり重傷のようだ。
「いつになったら、君達は言うことを聞いて大人しく家に帰るのだ。」
だが、両者その目は死んでいなかった。
高杉を見た後、銀時と久々に視線を交わす。それに微笑み返す権利をもう皐月は持っていなかったが、いつかの夕焼けの綺麗な日を思い出した。
「俺たちがそんなタマじゃねぇことは、」
「てめぇが一番わかってんだろうよ。」
神威と神楽に目線で逃げるように指示した後、傘を閉じ、わざと大きく踏み込み直して目の前の二人をなぎ払う。それを飛び越えて避けた二人が、それぞれを抱えて退いていく。適度に追いかけながらいると、ついに朧から撤退の命が下った。