• テキストサイズ

夕顔

第5章 女は黙って笑顔に花





街まで続く畔道を、皐月は傘をさして歩く。
その少し後ろを銀時が歩いていた。


怒りの治らない桂をなんとか撒いて、今日くらいは街の近くまで送っていく、と彼女について歩いてきた。

真っ黒の傘が夕焼けに浮かんで、日を食べているように見える。
ふと視界の端に、白い花が見えた。
銀時はそれを無意識のうちに摘んでいた。


「皐月、」

自分の声に振り向いた彼女の側へ、少し駆け足で近づく。
いつの間にか、距離が空いていたようだ。

銀時の手にある花に気付いて、皐月は首をかしげる。

そんな彼女の髪に指を通し、抵抗のないそれをとかしながら、銀時は高杉の事を思い出していた。
流石に、昨夜やったドッキリマンチョコのシールだけじゃつりあわねぇな、と思いながら高杉がさしていた反対の耳にそれをさす。

「え……。」

まさかそんな事をされると思わなかったのか、皐月が小さく驚く。

「お前は、あんな小せぇ花より、こっちのが似合ってんだろ。」

銀時がまっすぐ彼女をみながら、格好つけに言う。
皐月は、そっと花弁に触れる。高杉からもらったものよりも、大きく柔らかい。

「これは、何という花なんだ?」

「あ?かんぴょうだ、このやろー。」


思ったよりも可愛くない名前。
その割に、目線をそらしながこのやろー、と悪態をつく銀時は可愛らしかった。

「銀時、」

あんだよ、と呼ばれた声に視線を戻したその時。
銀時は一瞬呼吸を忘れた。






「銀時、ありがとう。」

夕焼けをバックに傘をさす皐月は、逆光の影の中、美しく微笑んでいた。いつも光のさしていないその瞳が、暗い中でも分かるほど、輝いていた。

音もなく、身体の中を何かが転がって落ちた。
今日ほど夕焼けが赤いことに感謝した日はない。




彼の手に落っこちてきたものは、頼りなく、小さな儚い恋。

その次の日から。
皐月が神社に姿を現すことはなかった。
/ 141ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp