第2章 思い出さなくても良い思い出もある
地下遊郭
ーーー吉原桃源郷。
中央暗部の触手に支えられ幕府に黙殺される、超法規的空間。
常世の街。
治安は最悪だが、夜兎にとっては陽のあたる地上より断然過ごしやすくいい場所だ。噎せ返るほどに蔓延る女達の匂いがなければ尚良かっただろう。皐月は先刻大きな爆発音のした方へと顔を向けた。大人しい奴等だとは思っていなかったが、きて早々何をしているのか…。
皐月がなぜこんな異境の星の、さらに異境な場所にいるのかといえば単純な話、上からの指示だった。どうやら幕府中枢と根深く関わりを持つ鳳仙の旦那をかなり敵視しているらしい。これが旦那でなければもっと簡単な仕事であっただろうな、と少し面倒に思う。そして更には、あの血の気の多い厄介者と一緒でなければもっと楽であっただろう。
今回の任務は吉原偵察を任された第七師団を、さらに監視するというもの。春雨上層部は切れすぎる刃である彼らをまたさらに警戒しているのだ。かなりの小心者だ。まぁ提督がアホなのだから仕方がない。