第3章 春休み明けの女子と夏休み前の男子はセットで気をつけろ
「皐月。」
銀時は迷わず、振り向いた皐月の前へ歩み出た。
死体がないのを見ると、違うところで殺してきたのだろう。
生憎、このくらいで引いてしまう様な、優しい世界では生きてこなかった。
「どこか似た匂いがしたんだ。だから、ずっと気になっていた。」
そう言いながら、そっと銀時を見上げる。
いつもの冷たい表情が、血に濡れていても月光のお陰か幾分柔らかく見えた。
「僕と同じ、鬼の子である君が、何故あの人の下で人間になろうとしているのか、それともあの人が人間にしようとしているのか。」
「……随分とお喋りなんだな。初めて知ったわ。」
「君は、そんな顔もするんだな。初めて知った。」
皐月は持っていた傘を手から離し、その場に落とすと、血まみれの両手で銀時の頬を包んだ。
「僕は……、僕も、ここから、」
言葉を詰まらせ始めた皐月を、銀時は静かに見下ろす。
自身の頬に触れている冷たい手を温めるように、血も気にせず指を絡ませ握り締めた。
「もし、僕も君のように、生きる戦場を選べるなら。」
そこは、君を守れる場所が良いと、おもったんだ。
彼女が音もなく瞬きをした時、白菫の咲いた両瞳から涙がこぼれ落ちる。そのあまりの美しさに、銀時は目を細め、そっと顔を落とした。
ゆっくりと唇を離した後、皐月が鼻先を擦り合わせてくる。その感覚に堪らずもう一度キスをした後、今にも消えてしまいそうな彼女を抱きしめた。
「お前なんかに、俺が守れるかよ。だからもう……こんな事すんな。」
その言葉に返事をする代わりに、皐月は銀時の背に腕を回した。