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夕顔

第1章 いい女は毛穴からして違う




幸いにも、買った物にはどれにも傷一つない。
それに安心した様子を見せた彼女は、しゃがんだ時と同じく、すっと真っ直ぐ立ち上がった。
慌てて新八も立ち上がり、今度はもう落とさない様にと荷を持ち直し、再度頭を下げた。

「お怪我がない様で本当によかったです。すみませんでした。」

「いいや、気にしないで欲しい。僕もちゃんと見ていなかったんだ。申し訳ない事をした。」

女性にしては勇ましい話し方、だが男性には無い柔らかな雰囲気の声に新八は顔をあげ、初めて影の下の、彼女の顔を見た。

ーーー白。

この色は彼女を直接表した様だと新八は思った。

表は黒、その番傘の裏は鮮血で染めた様な赤。それに良く映えてみえる美しい白髪と、前髪から覗く白菫色の瞳は一見すると一体化して見える。色素が元から薄いのだろうか、まつ毛の先まで真っ白で儚さが漂う。色白の肌に合った純白のチャイナ服に、黒い踝丈の少し緩めのズボン、パンプスに近い形の履物。

間違いない。彼女は神楽ちゃんと同じ………

自身の顔を見つめたままの相手に彼女は表情筋一つ動かさず、一歩前へ踏み出す。

「すまないが先を急いでいるんだ。…君も、気をつけて。」

華の様に美しい容姿を持つ人は、身体まで華でできているのかもしれない。いい匂いがした。すれ違い様距離の近づいた状態で見た彼女はまるで無機物の様な、そう、人形の様だった。

今まで出会ってきた人達とは比べ物にならない美しさ。
銀さんが前言っていた
「いい女は毛穴からして違うんだよ」
という言葉を思い出しながら、最後にもう一目だけでもと振り返ったが、目立つだろうあの黒の隅でさえ捉えることは出来なかったのだった。

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