第2章 scene1:教室
形ばかりの台詞合わせを済ませ、二人してぼんやりとしていると、スタッフ兼監督さんが相葉さんに手招きをする。
「ちょっと行ってくるね」
「はぁ〜い」
相葉さんが席を離れ、僕は机の上に開いたままで伏せてあった台本を手に取った。
監督さんが相葉さんだけを呼んだのには理由がある。
僕に“本当”の流れを知られないため。
監督さんや現場によっても違うんだけど、大方の撮影自体はこの台本に沿って進められる。
でも、実はこれ以外にもう一つの台本があることを、僕は知っている。
その方が、よりリアリティのある映像が撮れるからだ、って長瀬さんが教えてくれた。
だから僕には台本なんて要らないし、なんなら相手役の人に全部任せておけば良い。
今回の撮影の場合、それが相葉さんなんだけど…、相葉さんって、スタイルも良いし、顔だって結構なイケメンで、性格だって良さそうなんだけど、ちょっと頼りなさそうなんだよね…
まあでも、実際に撮影が始まったら分かんないけどね?
急にとんでもないスイッチが入っちゃう人も、中にはいるからさ(笑)
僕は台本をパタンと閉じると、それを目隠しに一つ大きな欠伸をした。
朝も早かったし、あんまり待ち時間が長いと、眠たくなっちゃうんだよね、僕…
とは言え居眠りなんてしてる時間もなく…
「HIMEちょっと…」
って長瀬さんが呼ぶから、僕はスカートの裾をヒラリ翻し、長瀬さんの元に駆け寄った。
「何か変更でも?」
僕が聞くと、長瀬さんは僕の耳元に口を寄せ、まるで内緒話をするみたいに手を添えた。
「HIME、今日の下着の色は?」
「えっ…?」
「いやな、相葉さんがどうも白じゃないと、って言うもんだからよ…」
なんだ、そんなこと(笑)
「ふふ、それなら大丈夫。今日は白だから♪」
勿論、男優さんによっては、下着の色に拘る人もいるから、他の色もちゃんと用意はしてるけどね?