第17章 楽園事件:8
例えば今までのキスは互いの気持ちを伝えあっていたと思っていたのだが違うのだろうか。だとしたら宜野座にはきっと何も分からない。
満たされていたものがあっという間に空になりそうな気がした。空になるとそこは晒されて痛む。こうなるなら変なことを確認しなければ良かったとさえ思う。だがそれも彼女の一言で全て吹き飛ぶ。
「もう、しないんですか?」
目を伏せたまま、小さな声が目の前の唇から放たれる。白い睫毛が上下すると細く小さな体が密着して、腕が背に回された。思わず抱き締め返す。
もうどうでもよい。本心がなんだろうと彼女が求めた。今必要なのはきっと自分なのだ。今はそれだけでいい。宜野座は膝の上のを抱えてもう一度ベッドルームへ向かう。ゆっくりゆっくり、マットレスに体を寝かせて自分もその上に覆いかぶさる。体重が全て掛からないように腕を立て、頭の位置を合わせた。ぼんやりと見つめているのか、ただ遠くを見ているのか分からないアンバーの瞳。そこにかかる白い前髪を横に流した。宜野座の顔から笑みが溢れる。優しかった。愛でるような眼差しと手先にも次第に体が熱くなるのを感じていた。彼が髪を撫でてくれて、何度もキスするのがもどかしい。先に進まないので終わりが見えない。それともこれ以上を望んでいないのだろうかとも思う。
「ギノさん、やり方知らないの?」
「なっ!!?」
顔が離れた隙に問いただすと宜野座は耳まで赤くなった。
「そ、そんなに下手か…?」
「下手かどうかは知らないですけど。」
「す、すまん。を喜ばせたいとは思っているんだが…その…」
本物の女性には触れたことがない。どう触れてよいのか、男なのである程度流れは知っているものの、いざ愛する女性を目の前にすると動けない。宜野座は盛大に溜息をついた。
「情けないな…。昔の言葉に据え膳食わぬは男の恥というのがあるが本当に恥だなこれは。」
「なんか…すみません。」
「いや…悪いのは俺だ。ムードを台無しにしてすまない。」
また溜息をつきながら宜野座は体を返しての隣に仰向けになった。重なっていたところが温まっていたせいか開放されると冷たい。それが彼の中で虚しさを大きくさせた。その虚しさに浸っているとが腕に体を寄せてきた。
「それも俺が良ければと思ってするのか?」