第17章 楽園事件:8
宜野座の指先がの顔の輪郭をゆっくりとなぞる。顎まで降りてきた所で人差し指で軽く持ち上げ、また唇を重ねる。今度は緊張が解けてきたのか柔らかい。感触を味わってすぐ離れた。
「いいのか?」
「え?」
何を聞かれているのか彼女には分からない。
「本当は、阿頼耶が好きだったんだろ?」
「それが何ですか?」
そうだった、彼女に遠回しな表現は伝わらない。こういうときハッキリとどう伝えたらいいのか宜野座はすぐに思いつかなかった。うーん、と唸りながら考える。
「本当は阿頼耶が好きなのに、俺とこんなことしていていいのか?」
「駄目なんですか?」
「い、いや。俺はいいんだが…」
寧ろ大歓迎ではあるのだが。
「気持ちの整理とかあるだろ?それとも、好きだったのは昔の話で今はもう好きじゃなかったか?」
は白い睫毛に瞳を隠す。
「よく、わかりません。好きだけど、嫌い。どっちもあります。」
それは宜野座には理解し難い感情だった。好きか嫌いかどっちでもないはあっても、好きも嫌いもあるというのは…。
嘘だ。知っている。父親に対して過去に持っていた感情がそれに近い。その感情を持つことによって大きなストレスを抱えることも知っている。宜野座の場合は父だったのが良かったのかもしれない。の場合は他人であり異性でしかも故人だ。行き場のない気持ちを整理するにはとにかく時間がかかる。
「ならやっぱり、ここから先は整理がついてからの方がいいんじゃないか?」
「ギノさんが、そう言うなら…」
「いやだから俺は別に…」
どっちなのだろう。
「ギノさんが良ければ何だって良いんです。」
「それは狡くないか?お前の気持ちも全部分からないまま判断は俺任せじゃないか。」
「え、これって駄目なんですか?」
は今までそうしてきた。相手が望むものを望むままに。もちろんできることに限りはあるが、だからこそそこに自分の意思なんてなかった。
「俺は…あまり良いとは思えないな。」
「そう、ですか…」
の声が落ちていく。叱られた子供のようだ。
「お互いに好きだと思える相手にこそ許すべきだと俺は思う。」
まあ今更言うのも変なのだが。
「お互いが好きかどうかなんてどうやって分かるんですか?」