第17章 楽園事件:8
そしてそれは宜野座にも感じる。宜野座はしつこくない。時々難しいことを言ったり先程のコインの話のように際限なく語ることもあるが、執拗にしてこないしとにかく優しい。知っている感覚なだけあって居心地もいいのかもしれない。出来れば彼の近くにいたいとさえ思う。それが楽だからだ。だがそれでは駄目だとも思う。はティーカップをソーサーに戻した。考えすぎて心がざわめく。そんな時はネックレスに触れる。彼女にとってまじないの一つだった。
「…」
宜野座は目を伏せたま呼んだ。何か彼も考えながら口を開く。
「これから、どうする?」
それをすぐに答えられたらどんなにいいだろう。だがこれ以上迷惑もかけられない。そもそも狡噛に世話になったから公安局に協力したのが始まりだ。貸し借りはもう終わりにした方が良いに決まっている。
「どうにか、しますよ。今までもそれなりに生きてきましたから。」
それはいつも亮一がいて、心のどこかに六花への希望があって、憎みはしたものの阿頼耶も生きていたからだ。ここから先は自分でやらなければならない。
「心配だな、ついこないだまで四六時中泣いてたお前だから…。本当は泣き虫なんだろ?」
狡噛にも言われたことがある。そうなのだろうか。本当の自分とはなんなのだろう。どこに置いてきたのだろう。
「もう泣きませんよ。独りなら悲しいことも起きないし…」
「独りじゃない、俺たちがいるだろう?」
「独りですよ。」
「独りになたがってるだけじゃないのか?」
「私は怪物。他は人間。怪物は他に居ない。」
「は人間だ。」
「怪物です。」
「人間だ。」
宜野座は席を立つと隣にきて腰を下ろす。近くでのアンバーの瞳をじっと見つめた。
「お前は、人間だ。」
はその圧に耐えきれず目を逸らす。やっぱりしつこい。狡噛と同じだ。
「人間って思いたいだけでしょう?」
「そういう自分は怪物にしたいだけだろう?」
面倒くさい。そう思った。放っておいてほしい。でも本当は見捨てないでほしい。我儘だ。今もそうだ。きっとどこかでお前は人だと言ってほしいのだ。くだらない。何を甘えているのか。それにいちいち付き合ってくれる宜野座はしつこいのでなくてやはり優しい。それも分かっている。