第17章 楽園事件:8
もう涙も出ない。ただ胸の奥が痛むだけ。ナイフで刮げられているような痛みだ。ダイムの身体を抱きしめて気を紛らわす。ダイムは黙って動かずにいた。
すると、ドアがノックされてすぐ開いた。宜野座だった。
直ぐに来てベッドに腰掛ける。は顔を上げた。
「大丈夫か?」
は静かに頷いた。それからダイムを解放する。ダイムはベッドから降りて、少しだけ開いたドアを器用に前足で開けて隣の部屋へと行った。宜野座がそれを見送っていた。
「優しいだろ?ダイムだ。」
「それに賢いです。」
そう言うと彼は満足そうに微笑んでいた。よほど可愛がってきたのはその表情でわかる。
「あの、ここは…」
「俺の部屋だ。」
「!すみません…ずっと借りてしまったんですね。」
「気にするな。休まるまで使って構わない。」
だがはすぐにベッドから出ようとした。足を床に付けてゆっくり立ち上がる。特に体は問題なさそうだ。
「寝ててもいいんだぞ?」
「大丈夫です。ありがとうございました。」
が部屋を出ようと足を一歩踏み出す前に、宜野座は腕を掴んでもう一度座らせた。は特段驚く様子もなくたた宜野座をぼんやりと見る。
「ほら、預かり物を返す。」
シャツの下にしまっていたネックレスを外し、彼女の首にまた付けた。ペンダントトップを握るとホッとした様子。大事にしてくれているのが嬉しかった。
「ありがとうございます。」
「気に入ってるみたいだな。」
「はい。私の宝です。」
「宝、か。嬉しいな、贈ったかいがある。」
「ギノさんは宝物ありますか?」
「あぁ、たくさんある。見てみるか?こっちだ。」
とくに見ると返事をもらったわけではないが、隣の部屋へ連れ出した。リビングとダイニングが一体化した部屋は官舎にしては広々している。ソファの横でダイムが座っていた。
その近くにはショーケースに綺麗に並べられた古い硬貨が収納されていた。コイン収集が趣味らしい。宜野座は目を輝かせてどの国のいつの時代の硬貨かを話しているがにはちんぷんかんぷんだった。それに宝物はそれだけではなかった。父の残した酒やグラスなんかもあった。本当にたくさんある。大切な物が複数あることはにとっては羨ましいの一言につきる。