第134章 ◇第百三十三話◇伏せられた作戦と女型の涙【女型の巨人編】

「！！どこへ行くんだ！？戻ってきなさい！！」

ハンジさんが後ろから叫んだ声がした。
こんな風に名前を叫ばれるのは一体何度目か。
いつものように振り返りもしない私は、猛スピードで女型の巨人が踏みにじった調査兵達の命の足跡を辿っていく。
地面には血だまり、真っ赤に染まった幹、散らばる仲間達の亡骸、そしてー。
血だまりの上に横たわるフロリアンを見つけてしまう。

「…。」

まるで削がれるように右半身を失ったフロリアンの亡骸を、枝の上から見下ろした。
言葉も、出なかった。
あぁ、そうだ。この世界は、残酷だった。
なぜ、忘れていたのだろう。
世界は、残酷だったじゃないか。いつもいつも、残酷だった。
幸せになろうとしていた、平凡な幸せを夢見ただけの花嫁をこんな無残な姿にしてしまうほどに、この世はー。

「っ！危ないから、早く元に戻っー。」

追いかけてきたニファを振り切り、私は元来た道を猛スピードで戻った。
残酷なのは世界なのか。
世界が残酷だから、フロリアンは死んだのか。
だから、ヒルラやルル、他にも大勢の人間が死んだのか。
違う。あそこで拘束されているのは、私達と同じ人間だ。
私達のほんのささやかな幸せすら許してくれない人間がいるから、だからー。