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【リヴァイ】いつか地平線を眺めるなら【進撃の巨人】

第62章 ◇第六十一話◇閉じるしかなった心の扉【恋の行方編】


「紅茶のおかわり淹れてくるね。」

アニの頭を優しく撫でて、私は立ち上がった。
空になったティーカップに手を伸ばそうとして、アニに手を掴まれる。
驚いてアニを見ると、さっきまで握りしめた自分の拳を見ていた彼女の瞳が、真っすぐと私を見据えている。
どこか怯えたような、不安そうな、色をしてー。

「もしさ…、その巨人化出来る人間が、アタシだったらさ、どうする?」

怯える不安そうな瞳とは対照的な、とても恐ろしい仮定の話。
誰が見たって、アニが冗談を言っているようには見えなかったはずだった。
でも、私は気づけなかった。
今日はいつもと雰囲気の違うアニが、知らない誰かみたいで怖かったからじゃない。
アニが、私の知っている優しくて可愛い妹のようなアニのままだったからー。
だから、その仮定が現実になったらと想像するのも怖くて、私は気づかないことにしたのかもしれない。

「もう~、何言ってるの?
 私の可愛いアニちゃんが、あんな気持ち悪い顔した巨人なわけないじゃんっ。」

私は笑った。
可笑しそうに笑って、でも、アニがどこかへ行ってしまいそうな気がして怖くなって、強く抱きしめた。
腕の中で、一瞬だけアニが身体をかたくしたけれど、その後、アニの手は自分の胸の前にまわる私の腕に触れた。
強く握りしめるように、ギュッと抱きしめるみたいに、縋るように私の腕に触れたアニの手は、私に何を求めていたのだろう。
私に助けを求めていたのだろうか。
でも、このときの私は、これから起こる地獄のような悲劇なんて知るわけもなくて、胸の奥に広がる言いようのない不安を誤魔化すのに精一杯だった。
どれくらいの勇気と覚悟を持って、そして、どんな気持ちで、アニが私にこんなことを訊ねたのか、分からない。
でも、私はきっと、選択を間違えた。
強くて優しいアニを好きになって、一緒にいたいからっていう私のワガママで頑ななアニの心に土足で踏み込もうとしていたのなら、ちゃんと向き合わなきゃいけなかったのにー。
そうすれば、あんなに…悲しい結末は訪れなかったのだろうか。
どんなに後悔しても、時は戻せないことを私は嫌というほどに思い知ったはずなのに、私はまだ何も分からないままで、私の腕から離れたアニの手を、掴んでやることもしなかった。
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